2022年8月26日金曜日

エルヴィス(2022年映画)

エルヴィス(字幕版)
★★★☆☆
~エルヴィスのイメージが、肉付けされる~


 2022年公開の米映画。
 どんな風に生きていてもその名前にあたったことはあるであろう著名ロックシンガー、『エルヴィス・プレスリー』その人の生涯を描いた作品。
 
 確認ではあるが、伝記映画とはいえ、すべての事実を伝えることが出来ない。従って、作品に含める要素についての取捨選択が行われ、その選択をどのような基準で行うのかによって、対象の人格が一つの物語として浮かび上がり、つまりそれが伝記の物語性なのだと思う。当然ではあるが、今作ももちろん現実に基づいたフィクションなのだ。

 取捨選択があまりに恣意的だと嘘くさく、誠実すぎると抑揚がなくなる。たとえばエルヴィスは最愛の妻と離婚に及び、それはエルヴィスの放蕩、女性関係も原因だと示されるが、妻は愛を貫いた風に描かれている。実際には彼女も浮気して去って行ったという話もあり、映画にその情報がないということは不誠実に感じられるかも知れないが、作品として考えるなら、その情報があっては上手くまとまらなかっただろう。
 エルビスと彼女のつながりはこの作品内の主軸の一つであり、二人のシーンのBGMにはエルビスの代表曲である「好きにならずにいられない(Can’t Help Falling in Love)」が様々なバリエーションで流れてその「特別」を感じさせる。
 伝記は一つの解釈であり、事実の羅列ではないのだ。視聴者はこの作品で描かれた内容が完全な真実なのではなく、別の見方、解釈も存在するのだということには留意しなくてはならない。 

 かくしてエルヴィスの人生を、彼が追い求めた『愛』に沿って構築した本作。名前と恰幅の良いおじさんが奇抜な衣装を着けているイメージしかなかった自分の知識に、一定の肉付けが行われた。

 やはり一番衝撃を受けたのは、黒人文化と白人文化を融合した楽曲を、白人として発表したという事実。しかも人種隔離政策真っただ中のアメリカで。
 幼少期のゴスペルシーンが実に有効に働いており、その薫陶を受けたエルヴィスが発表した楽曲が、いかにゴスペルだけでなく、カントリーだけでなく、それらが融合したものであったのかが見ているだけで納得出来る。

 そしてビール腹の奇抜な格好をしたおっさんが熱唱するというイメージは、エンターテイメントの魔力に捉えられ、一生をショーに殉じることになった哀れな、そしてある意味幸せな希代のロックシンガーの姿に書き換えられた。
 特に舞台の上で演者が観客全体から受ける熱狂はある種の愛であり、その強さと恍惚は家族が与えてくれる愛よりも強く、依存症になり得るという視点は、彼だけでなく多くのエンターティナーが舞台に魅せられて死んでいくという事実に強い説得力を与えてくれた。

 作品の最後に彼本人の映像が丸一曲分流れる。定点カメラで捉えた演出も何もない映像なのに、その求心力の強さよ! 
 スターの持つ引力。古い映像を経て、なおこの強烈さなのかと驚かずにいられない。

 1本見ると、するっと腑に落ちる。
 エルヴィス・プレスリーは、永遠のロックスターだ。

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