★★★☆☆
~まさかのサイコサスペンス~
1982年の米アクション映画。当時社会的な問題となっていた「ベトナム帰還兵」を主人公とした物語で、その後のシリーズにはない強い問題意識がある。
ベトナム帰還兵であるジョン・ランボー(シルヴェスター・スタローン)はかつての戦友を訪ねてアメリカの片田舎を訪れるが、戦友は枯れ葉剤の影響とされるガンですでにこの世を去っていた。うちひしがれたジョンは食事をしようと街に立ち寄るが、それを見かけた保安官ティールズに不審者だと目をつけられる。街から追い出そうとするティールズに反発したジョンは保安官事務所に連行され他の保安官達に無体な扱いを受け、そのショックでベトナム時代のトラウマが蘇り、ジョンの破格の戦闘能力が解き放たれてしまった――。
なんだか「ランボー」といえば敵地に単身乗り込んで無敵の大活躍を見せるヒーローアクションと思い込んでいたが、シリーズ第一作である本作にはそのような要素はまるで無い。ジョンは一方的に迫害されるいじめられっ子で、ひどい仕打ちを受け続けたあげく大爆発、とんでもない破壊を町にもたらすという内容。同情できるが、とばっちりの被害を受けた住民が多数いただろうという点でどっちかというと悪役。
保安官がジョンを追い払おうとするのが事件の発端となっているが、その気持ちも分かる。ジョンは(当然だが)スタローンの醸し出す何を考えているのか分からない危険性をびんびん放射しており、保安官としてはむしろ正しいとさえ感じる。町外れに車で送られてどっか行けと言われたところでジョンがそのまま立ち去れば良かったのだが、ここに至るまでのあれこれに堪忍袋の緒が切れたのであろう、いじめられっ子が少し意地をはって町に戻ってこようとしたのがまずかった。あとはお互いが不幸の連鎖であっという間に意味の無い戦闘に突入していくのである。
戦闘描写は切れや迫力に欠けあまり良い出来とは映らない。爆発や炎上はここぞとばかりに派手だが、潔くドッカンドッカンするのみで溜めや爽快感はさほど無い。肝心のジョンの活躍も、相手が大して鍛練を積んでいない州兵や警察官なので一方的すぎて凄さが分からず、サバイバルゲームに興じるなりきり中年の印象。途中で拾った何かの袋から頭と手を出して腰紐でくくった姿で戦っているのも、ちょっと気を抜くとコメディーに見える。
これは星一つにするしか無いかなあと見ていると、ラスト数分で一気に評価が切り替わった。
ジョンが昔の上官に心情を吐露するのだが、それが言ってみれば「いじめられた内容」の告白なのだ。ベトナム帰還兵であるジョンは帰国後も頭がおかしくなるほど社会に追い詰められていたのだ。
これまでの鑑賞中ジョンに対して「なんだか頭のおかしい人に見えるなあ」「怪しいなあ」と感じていた自分の印象それこそが、実にこれまでジョンの味わってきた社会からの冷たい視線だったのである。一気にここまでのおかしな行動が「本当に頭をやられていたから」という裏付けを得て、そうすると何とリアルな演出と演技だったろう。
そこらの中途半端な「どんでん返し」を標榜する作品などより、はるかに凄まじい回天であった。
物語は何が解決するわけで無くこの主張を持って潔く終わり、最後の訴えが心に残る。
この1作目は、以降のヒーローものとなったシリーズとは確実に異なる。気がつけば懐に入られていた恐怖と驚き。侮っていた相手に至近距離から一撃を食わされる感覚。まさにジョンが相手に対して行った反撃を視聴者も直撃されることになるのだ。
この感想は、当時から感じ得るものなのか、色々拙く見える今だから感じる事なのか分からない。
だが、茶化したり、バカにしたりする気持ちで無く、現在この作品はとんでもないどんでん返しを秘めたサスペンスになっている。
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