2019年10月30日水曜日

機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星

機動戦士ガンダム THE ORIGIN I [Blu-ray]

★★☆☆☆
~画面クオリティは高いけれど~

 原作アニメは1979年に放送されたテレビアニメ。リアル系ロボットアニメの始祖として名高い「機動戦士ガンダム」。
 その作品でキャラデザ、作画監督を務め物語部分にも大きな影響を及ぼしたる安彦良和が原作アニメを漫画化した。これが「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」。この中で、原作アニメでは語られなかった人間関係や舞台裏の事情裏の事情などが非常に強固に補完された。
 安彦氏はアニメ界から離れた後、超絶画力を元に漫画家として独自の地位を確立。神話や歴史上の人物を生き生きと描くとともに、大量の人物を練り合わせるように歴史を描いてその構成力も見せつけた。

 今作は「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」の一節をアニメ化したものとなる。監督も安彦氏が務めており、氏のアニメ界復帰は実に25年ぶりとのこと。
 もともと6本に別れて制作され、少数の劇場における公開とディスクメディア販売という変則的な展開で三年にわたってリリースされた。その後テレビ版として切り分け、再編集されて全13話で放送されたのが今回視聴したものとなる。

 これまで描かれたあまたのガンダムシリーズの中でも最大級の人気キャラクターである、「シャア・アズナブル」の成り立ちが主体となる。敵側のエースパイロットであり、主人公の前に立ちはだかるライバルであり、戦争の発端となった思想家の息子であり、敵味方に分かれることになってしまった兄妹の兄であり――。書き上げるとすごい属性持ちのなんと複雑なキャラクターであることか。主人公と三角関係的な立場にもなるし、もはやもう一人の主人公だといって良いだろう。
 どのようにしてシャアがシャアになり得たのか、変に手をつけるととんでもない矛盾を生んで本編に泥をかけることになってしまう題材だが、さすが安彦良和、見事にやりおおせた。これを本人監督でアニメ化するのだから面白くないはずはない! ……と思うでしょ?
 
 実はシャアの生い立ちは漫画はまだしも、アニメーションにはあまり向いていない物語部分なのである。
 というのも機動戦士ガンダムの花と言えば巨大人型兵器モビルスーツなのに、本作の物語時点ではまだ開発途中なのである。試作が作られその威力が確認されるまでの部分なのでモビルスーツ同士の戦いが中々描かれない。そもそも機動戦士ガンダムで描かれた「一年戦争」開戦にいたる部分でもあるので、大々的な戦闘も最後のルウム戦役くらいなのだ。
 人間ドラマとしては魅力的だが、本来大活躍する人々がまだ戦渦に巻き込まれる以前であるので、いってしまえばマニア向け、一般的ではない内容になってしまっている。
 
 それでも見せ場がないわけではない。悪化していく両陣営の局所的な戦闘やモビルスーツ開発の模擬戦など、なんとかかんとか派手な戦闘を盛り込んでいるが、やはり盛り上がりに欠けてしまう。3DCGを使用した戦闘部分は画面密度が高く魅力的ではあるが、どうにもCG臭が鼻につく。戦艦やモビルスーツがあまりに縦横無尽に飛び回り、負けじとカメラも動き回る。よく見る残念な3D演出で、兵器達の重みがまるでなくなってしまっている。

 あまり声高に言いたいことではないが、安彦氏はアニメーション監督にはあまり向いていないと思う。あれだけレイアウトを切れて画力も伝説級なのに、監督作品はどうにも魅力が薄いのだ。「アリオン」「ヴィナス戦記」「巨神ゴーグ」「風と木の詩」など、劇場版からテレビアニメ、OVAまで様々な作品の監督作品が存在するが、どれも今ひとつピンとこないのである。
 見ていて何の不自然もつまずきもない基本に忠実な演出だと思うのだが、反対に言うと心に引っかからないのである。
 おそらく画力、構成力が高すぎるため、全てのシーンが決まりすぎ格好良すぎる。二次元の中で奥行きを描く無双の力量を持っているのに、それを時間軸に沿って展開させる部分の力が、それに見合っていないのだ。
 したがって、格好良いシーンの連続なのになぜか面白くない印象になる。
 
 今作もその範疇からでる事はできず、続編を見たいなと思うものの、それは作品の魅力と言うより、最新技術で再び描かれる一年戦争を見たいという欲求なのだ。

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