2019年10月18日金曜日

グランクレスト戦記

グランクレスト戦記 1(完全生産限定版) [Blu-ray]

★★★☆☆
~主人公以外をきちんと描くと言うこと~


 「ロードス島戦記」の水野良が原作の群雄争覇の物語。
 物語の途中で最終回、人気があれば二期もするよという投げっぱなしのアニメ化が目立つ昨今、今作は2クールで長い物語をキチリと描いておりこれだけでも評価できるだろう。

 秩序と混沌が相争う世界。混沌を駆逐する力「クレスト」を持つ領主たちの活躍により光と闇の戦いは一旦の収束を見せたが、次に起こったのは大陸の覇権争いだった。
 離合集散を繰り返した結果世界は二大勢力に収束。ここにおいて平和を願う両陣営の王子王女が婚姻の運びとなり、最終決戦を回避。平和な時代を迎えようとしていた。
 まさにその式場において両陣営の現当主が共に暗殺され、犯人は不明なまま婚約は破棄され、世界は再び混迷の中に沈んだ。
 現場に居合わせた若き魔法師ルシーカは事件を防げなかった己の未熟を呪いつつ、乗り気ではない地方領主との契約のため道を急ぐ。野盗に襲われるが放浪の戦士テオに救われ、未熟ながらも大きな夢に向けて進むテオにルシーカは己の命運をかける決心をする――。

 つまりは二人の戦国成り上がりの物語である。
 魔法の力と知略によってテオを支えるルシーカ。王道を行く健朗さで道を示すテオ。徐々に増えていく仲間。テオ勢力の躍進が序盤の魅力である。
 これだけなら良くある戦記物だが、さすが水野良。敵味方にもそれぞれのドラマをきちんと用意して、時代の奔流に巻き込まれる人々の生き様を描き出している。
 特に婚姻するはずだった王子王女は、ともに平和を望み愛し合っているのに戦わざるを得ない状況に追い詰められていく。とはいえ仲直りするんでしょ、というより気楽さを打ち砕く王女の覚悟は、有力者を味方にするために己の純血を散らすほど。まさに物語の底を流れる悲劇として作品に重みを与えている。

 主人公以外にもきちんと繋がった感情の動きや記憶の連続性があること

 非常に簡潔ではあるが、これは作り話を語る上で非常に大切なことだろう。周りに世界があり、そこで生きている人々がいる事を表現するための、まさに王道の手段だ。
 今作はそういう意味で人々がきちんと生きており、世界も存在している。
 そこで描かれる立身出世なのだから、面白いのだ。
 
 アニメーションの出来としては及第点と言ったところ。戦闘場面の描写に厳しい部分が多かった。
 特に地形を重要要素とした戦略の表現などは、設定がおかしいのかレイアウトがおかしいのか、あまりに細い山の一本道や、広さの不明な戦場など、描写に首をかしげるところ多数である。なのでどうしてテオとルシーカの軍が強いのか、いまいち分からないまま(納得できないまま)物語は終わってしまった。

 演出としては所々に明らかな出崎イズム(故出崎監督の特徴的な演出各種)が宿っており、現実離れした比喩表現を美しい画面にして見せつけてくれる。とある城での誕生パーティのダンスなどは、まさに嬉しくなる演出であった。
 
 人物の織りなす規模の大きな物語として、充分に楽しむことの出来る作品だ。
 

 ところで――。
 世にあふれるハーレム無双の冒険譚と、それ以外の冒険譚の最も大きな違いは、物語に現れる困難と悲劇の量ではないかと思う。悲劇はきちんと準備され、手順を踏まないと悲劇にならない。元いた位置がきちんと認識されていないと落下した高さが分からないからだ。また、マイナスの事象にはきちんと理由付けされていないと納得して受け容れることが出来ない。
 反対に異性に持てるのは簡単だ。魅力的な異性から好意を得るというプラスの事象はかなり強力で、特にそこに理由がなくとも簡単に受け容れられる。理由をつけるにしても、ちょっとしたことで十分だ。恋は勘違いや思い込みで簡単に発生する事を我々はよく知っている。
 

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