2019年10月16日水曜日

ISLAND

ISLAND Vol.1 [Blu-ray]

★★☆☆☆
~ゲームとアニメの大きな狭間~

 2018年の1クールテレビアニメ。原作は2016年~でPC/Vita/PS4で発売されたビジュアルノベル。いわゆる紙芝居ギャルゲー。PCはエロゲーかな。


 南国風の孤島「浦島」の浜辺に打ち上げられた切那(せつな)はそれまでの記憶を失っていた。
 魅力的な少女、凛音(りんね)、夏蓮(かれん)、沙羅(さら)と出会い、それぞれの問題に一緒に向き合っていく中でお互いの理解を深めていく。
 浦島に昔から残る「切那と凛音」の伝説。切那にフラッシュバックする過去の記憶。凛音の母の秘密。
 タイムトラベルは本当に存在するのか。みんなが幸せになる世界は存在するのか――。

 原作ゲームではそれぞれのヒロイン毎にルートが存在し、順番にクリアすることによって謎が解き明かされていくという仕組み。
 本作もそれを踏襲しているが、最終ヒロインに至る必要があるため、その他のヒロインとは一線を越えない。つまり最終ヒロイン以外とは中途半端な成り行きですっきりしない状況である。
 これにはゲームとアニメという異なる媒体の特徴が現れていると思う。
 
 ゲームではヒロイン毎にそこで物語が終わりというきっちりしたエンディングを用意出来る。次のヒロインは「あの時ああしていれば――」を選んだ場合の並列世界として展開するため、プレイヤーはクリアしたヒロインときちんと区切りをつけて、良心の呵責なく次のヒロインに挑むことが出来る。

 反してアニメの場合、一つながりの物語として展開するため最終ヒロインに到達する主人公は基本的に一途でなくてはならない。途中で他のヒロインに引っかかって振った後に別ヒロインを追い求めるという展開をすれば良いのだが、それは最終以外のヒロインを貶めることであるし、そんな主人公に感情移入しにくいのである。
 時間をかけてきちんとヒロイン乗り換えを表現できれば良いが、1クールの中でそれを行うのはなかなか荷が重いのだろう。
 
 この問題にアニメは色々と挑戦してきた。
 
 ①:1クールを複数エピソードに分けて、それぞれで異なるヒロインの話を展開する。
 ②:途中まで同一だが、終盤で最終ヒロイン別のエピソードに枝分かれする。
 ③:最終ヒロイン以外を脇役に追いやって最終ヒロインのルートのみ注力する。
  etc.
  
 ゲームも最終的な「正ヒロイン」は決まっている場合が多いため、アニメもそれに準じて作られることが多いが、原作を越えるのは非常に難しい。
 ヒロイン分岐の紙芝居ギャルゲーは人生をくり返し行うフォーマット、並列世界のやり直しをくり返すシステムであると言っていい。くり返す中で世界やキャラクターに愛着を持っていき、作品世界の謎も解き明かしていく。その下積みの上に最終的なヒロインの話が載ることで最大限の印象を与える仕組みになっている。
 様々なヒロインをクリアすることが、最終ヒロインの正ルートを輝かせるのである。
 
 今作は③の手法だが、物語として他ヒロインのエピソードが必須であるため、他ヒロイン攻略を寸止め状態にして物語を続けている。
 全体で大きなしかけを用意している作品なので、こうするより無かったのだと思う。むしろがんばっていると思う。
 しかし、物語体験においては、おそらくゲームに比べてはるかにプアな状態になっている。原作ゲームはプレイしていないが、同様形式のギャルゲーは何本もクリアしてきた上での意見である。
 
 主要ヒロインは四人。時間をテーマにしているため繋がりの理解が複雑。全く別世界での物語進行が存在。
 これを全12話でまとまるのは、明らかに時間が足りない。説明と作品情緒を天秤にかけてどうやら後者を選んだのか、説明を諦めている部分が非常に多い。残念な事にその代価とした雰囲気を出すための余裕もいまひとつ上手く使えていない。
 説明をしようともしないのに、のんびりと話が進む印象となっており、単純に出来が悪いと言われてしまっても仕方がないだろう。
 
 アニメになったことで、原作が元々もっていた不自然さや粗が浮かび上がってしまっている箇所も多い。
 例えば島の規模や住人の生活状況。人がたくさんいるのかいないのかさえ分からない。
 世界の科学技術レベル。物語全体のはじまりはどこなのか。
 一番気になったのは、声優による歌唱が物語に組み込まれていて、それが鼻声の甘ったるいアイドルのような歌い方だったこと。
 それまで普通にしゃべっていたヒロインが、いきなりぶりっこになって歌い出すとか、いかにその声優ファンにとって当たり前のことだろうと、それを知らない者にとってはお笑いじみた失敗に感じられてしまう。しかもシリアスなシーン。
 
 本作はゲームというプラットフォームの特性を活かしたシナリオを、やはりアニメでは表現しきれなかった、という挑戦と結果である。
 


 


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