★☆☆☆☆
~チーズ抜きピザ~
2012年のガンアクション映画。イギリスのコミックを原作としており、1995年にも主役をシルヴェスター・スタローンとして制作されている。
今作は1995年版とは関連のない、設定だけ持ち込んだ別物。
近未来のアメリカ。核の汚染で人類の生存域は狭くなり、人口過密な貧困地帯が広がり続け、犯罪件数も爆発的に増加。
それに対処すべく、逮捕・裁判・刑罰を現場で行い速やかに執行する存在――「ジャッジ」が誕生。
その一員であるドレッドは新人隊員の最終試験もかねて高層ビルで起こった殺人事件の調査を開始する。そのビルは使用すると世界がスローモーションに認知される新型麻薬「スローモー」の根拠地となっていた。
ビルを支配する女性ボス「ママ」はビルを閉鎖。二人のジャッジを殺害すべく部下に指令を下した――。
巨大ビルは一つの街と化しており民間人が大量に暮らしている。そこに閉じ込められた二人きりのジャッジとギャングの戦い。何か面白そうなシチュエーションだがそれほど活かせておらず、広い閉鎖区画内というだけになってしまっている。
むしろスローモーを使用した状態での落下死、引き延ばされた高所落下を映像にするための高層ビル設定のようである。
というのもこの作品、とにかくスローモーの表現に気合いが入っている。銃撃戦では弾丸が腹に当たった瞬間に衝撃波が広がり、脂肪を波打たせる。入浴シーンでは水面から上げた手に纏う水しぶきが、光を受けてキラキラする。煙の動き、砕け落ちるガラス――。しつこいくらいにスローモーションが繰り広げられる。
これらは不自然に多く、物語として不要なレベルである。そこまでして入っているのはどうやらこの作品が「3D上映」前提で制作されたかららしい。なるほどなるほど、3Dで見るのだとなるとスローモーのシーンはきっと魅力的だったろう。ビルがわざわざ200階分の吹き抜けになって落下しまくるのも、遠近感を見せる3Dに有利なシチュエーションだ。
だが、残念ながら現在この作品を3Dで鑑賞する方法は無く、宝の持ち腐れとなっている。
映像的には上記の様な特徴があるが、その他部分にはどうにも閉口する
例えばジャッジは警察や裁判所の役割を個人で負っており、これ自体ブラック企業も真っ青の無茶ぶりだが、その無茶に説得力を与えようという気がさらさらない。多少の防弾服(?)を着てヘルメットを被っただけの個人が、武装集団相手に何が出来るというのだろう。しかもヒロインはヘルメットを被らない。ヒーロー装備といえば各種弾丸を任意に切り替え可能なハイテク銃のみだが、弾切れを補充する手段もない。外部オペレーターの誘導どころか、通信さえ途絶の有り様。
さすがに無理でしょ。
同様の設定に「ダイ・ハード」などが有るが、こそこそ隠れながら上手く立ち回る機転が説得力になっているのに対して、ジャッジは自分をロボコップかターミネーターと勘違いしているような悠長さで正面突破ばかり。そうですね、ちょっとアホっぽい……。
敵が娼婦あがりの凶悪な女性というのも腑に落ちない。チンコ噛み切るような女といっても、回りに狂信的な偉丈夫でもいなければ立場を守れまい。エリート集団であるジャッジ仲間の判断も理解できない。本当に無能だ。
唯一面白いと思ったのがギャングメンバーの見せ方で、情け容赦なさと普通の人間ぽさの両面を描いている。極悪人というより、環境、状況が生きるためにそうさせているのだよ、あなたとそんなに遠い人間ではないよ、というご近所感がある。
3D映像のために作られて、それを失ってしまった映画。
あんパンの皮だけ食べても、そりゃ美味しくないでしょ。
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