★★★★☆
~栄養満点の美味しいスープ~
池井戸潤の書き下ろし小説を原作とした、社会人ラグビー&社内政治を題材にしたテレビドラマ。
ガッツリ安定感ある日曜劇場枠の作品なのでなんの不安もなく楽しむことができる。池井戸潤原作は同枠でも倍返しだ! でおなじみ「半沢直樹」を筆頭に「下町ロケット」「集団左遷!!」「陸王」など多くがドラマ化されてきている。
どの作品も確実に及第点を超えたエンタテインメントという打率の高さだが、難を言うなら銀行業務であったり、部品工場であったり、その凄さがなかなか分かりづらい内容が多かった。それをあの手この手で説明しながら物語を進めていくのがこれまたすごいのだが……。
今作はその点が強い。ラグビーである。
前に投げたら駄目とか、ややこしいオフサイドとか、ルールが分かりにくいとされるラグビーだが、敵とぶつかり、ボールを奪い、タックルをよけて駆け抜ける姿は、燃料バルブより遥かに凄さが直観的である。
ラグビーシーンの迫力がまた素晴らしい。実際のラグビープレイヤーと役者の混在だそうだが、うまく代役シーンを盛り込んでいるのか、カットつなぎの妙なのか、素人プレイで興ざめすることがない。際どいプレイのシーンもきっちり映像化しており、何度も何度も撮りなおしたのだろう。
その甲斐あって今作のテーマである、家族や仲間のために恐怖に立ち向かう勇気に大きな説得力が生まれている。
自分も大学時代にラグビーをやっていた。人数不足で素人が入部して即レギュラーという状況だったが、ドラマで描かれていた内容について実体験に基づく共感を覚えた。
ともかくぶつかる恐怖とその克服。
どんなポジションであっても、ラグビーをする限りタックルはしなければならない。ぶつかることが当たり前、基本の基本なのだ。
その上、自分が立ち向かわねばならないという責任感。仲間からの信頼(もしくはプレッシャー)。そういったものが恐怖と入り混じり、敵はどんどん近づいて考えあぐねる時間もない。
半ば練習で染み込んだ反射反応のようにタックルに飛び込む時、とんでもない高揚感と開放感がある。
自分はバックスではなくフォワードだったので、一対一の状況にはそうそうならなかった。敵にぶつかったりぶつかられたりしてラックやモールを作る事が多かった。
固くむさ苦しいおっさんに肌を密着させて押し合いへし合いするのは、満員電車の中で皆でおしくらまんじゅうするようなもので、結構楽しそうでしょ?
あと、スクラムは肩こりを治すのにめちゃめちゃ効く。全力かけた肩マッサージになる。
ドラマの展開は水戸黄門的なお約束を踏襲しているが、幾つものドラマ、状況を上手く重ね合わせることで複雑なリズムが作られておりやめ時が無い。
大手自動車会社の君島隼人は己の信念に基づいて確実な業績を残す切れ者社員である。その信念に忠実なあまり、次期社長を狙う滝川に反対する立場をとってしまい報復人事として工場に左遷。しかも負けが込んで廃部の危機を迎えている社会人ラグビー部のゼネラルマネージャーを兼務させられる。
全く門外漢のラグビー。会社がなぜスポーツチームを持つ必要があるのか。
これまで触れてこなかった会社の側面に触れ、君島隼人はチームの立て直しのために立ち上がる。
色恋沙汰と無縁なのも他のドラマと差別化が効いており、親子、夫婦、同僚、友人といった他の関係は網羅しているので、これはわざとだろう。
思うに恋愛要素はドラマのパーツとして目立ちすぎ全体のバランスを崩してしまう。スクラムに無駄な力が働くようなものだ。
SNS栄えする飛び道具のような設定を用いず、地に足のついた素材をきちんと調理し、全体の味を調え、一つの料理とする。
一件地味かもしれないが、滋味にあふれて栄養満点。元気になれる、体が丈夫になる。
そんな、健康優良定番ドラマである。
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