2020年6月19日金曜日

映画 ひつじのショーン 〜バック・トゥ・ザ・ホーム〜

 ひつじのショーン ~バック・トゥ・ザ・ホーム~ ブルーレイディスク+DVDセット [Blu-ray]
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  ★★☆☆☆
~テレビエピソード12本分のボリューム~


 2007年から制作されているイギリスの短編アニメーション作品。2019年にはシリーズ6が制作された息の長いシリーズ。
 仲間と一緒に郊外の牧場で暮らす羊のショーンが、牧場主(人間)と牧羊犬ビッツァーの目を盗んでは仲間たちと様々な騒動を巻き起こす。

 最大の特徴はいわゆるコマ撮りのミニチュアアニメ、「ストップモーション・アニメーション」であるということ。
 背景やキャラ、各種エフェクトの合成にコンピューターが使用されているのだろうが、基本的に各素材は実際に手作りされたミニチュア。粘土で作られたキャラクターの動き、表情はどこか暖かで優しい感触
 CGアニメーションと異なる感触はどこから生まれているのだろう?
 手作りならではの、ゆがみや跡形、作業後が情報として感じられているのだろうか。
 
 この感触はゲームの手書きのグラフィック「ドット絵」と近いものがあるのかも知れない。
 昔のゲーム機は表示解像度も処理性能も低かったため、少ない色数と解像度(ドットの数)でゲームグラフィックを作成していた。
 方眼紙のマスに色を塗ってつくるイメージ。カクカクのマリオやポケモンのデザインをTシャツなどのグッズデザインとして見かける機会は今でも多い。 
 このドットを打って絵を作るという作業は、昨今のゲーム素材が基本的に写実と情報量の増加を目指しているのと根本的に隔絶しており、もはや伝統芸能のような存在になっている。必要とされる機会が少ないので仕方がないが、ドットを打てる人材は3Dモデルを作成できる人よりもレアなのだ。

 たとえばとあるキャラクターについて、ドットとCGでつくってみるとする。CGのほうは一度レンダリング(スクリーンショットみたいな物)してドットと同じサイズに縮小する。この縮小という作業は基本的に機械的な自動処理だ。この二つを比べてみると大違いである。ドットのほうは「そう見えるように」描いていくのでくっきりとキャラクターが浮かび上がる。CGのほうは細かい部分がつぶれてしまい、キャラクター表現として残すべき所とそうではない所の区別も為されていないのでぼんやりと弱い印象になる。下手するとそのキャラクターに見えない、ということになってしまうだろう。
  反対にドット絵を拡大してCGサイズに合わせると、これはもう見られる物ではない。拡大処理時に全体にアンチエイリアス処理(ぼかし)が入ってぼけぼけのがたがただ。

 どちらが優れているというのではなく、状況とその必要性に合わせて異なる価値を持っていると言うことで、今ではドットを活用する機会が減っている。ただし、表現としての魅力は高いので、それを活用したゲームもまだまだ数多く作られている。
 
 このドットとクレイアニメで共有される特徴は、人の手でそう見えるようにつくっていく、という点だ。
 物理的に正しくなくても気持ちの良いように、その場その場で最適化を行っていく。人間の視覚認識なんていい加減だということは、各種錯視(日本の平行線が曲がって見えるとかいった、錯覚図形)を体験してみると明らかだ。人間が選択して形作ることは、人間の認識において最も有効な形を取りうるのだろう。

 CGと違って手作りのノイズが多く混ざっていることも、画面の情報量を暖かく増していると思う。
 完全な曲線、平面など現実世界にはあり得ない。どこか曲がって、傷が入っている不完全な物ばかりだ。そういう現実に生きているのだから、手作りのいびつさが暖かく感じるのも当然だろう。

 立ち返って、羊のショーンはクレイアニメで作成されており、かといってそれに固執しすぎていないようにも感じる。
 単純なクレイアニメでは表現の難しいシーンも多数あり、ブルーバックの合成や、ひょっとしたらCGで作った物も入っているのかも知れない。ともかく全体として、クレイアニメの温かさと、昔は無理だった表現の範囲拡大を並立させており、CG全盛の中でも古びない最先端の魅力を持っている。

 テレビで放送されているシリーズは一話7分とコンパクトだが、今作は映画なので85分とボリュームたっぷり。
 様々な偶然から記憶を失ってしまった牧場主を探して、ショーンと仲間たちが大都会へ向かう。
 普段とは違うシチュエーション満載で目新しく、時間も長いので満足感が高い。反対に、7分版の切れ味が良すぎるので少し悠長に感じるかも知れない。
 牧場主と家畜たちの絆が描かれ世界観が広く深く掘り起こされる内容なので、今作を見た後ではテレビのエピソードがまた違って感じられる。


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