★★★★☆
~ラストシーンにしびれる~
1975年の邦画。自分が生まれた頃の映画だが十二分に楽しむことが出来た。
監督は「ミスター超大作」こと佐藤純彌。
「人間の証明」「植村直己物語」「敦煌」といった世界を股にかけた作品多数だが、「北京原人 Who are you?」でとんでも監督の烙印をおされてもいる。まあ北京原人もワールドワイドといえばワールドワイド……。
安全神話を誇る新幹線。爆弾設置の電話といういたずらに困らされていた時節、電話がかかるが、今度は本物である事の証明としてローカル機関車の爆破を予告。実際に爆破事件が発生した。
時速80キロを切ると爆発する――。有事には緊急停車して安全を確保する新幹線の基本方針を逆手に取ったような犯行。
東京発福岡行き109号の猶予は福岡到着までの10時間。爆弾の解除を目指して必死の捜査活動と、列車運行が開始される――。
152分と長い作品だが、犯人側のドラマをきちんと描いたことがその理由である。現に100分ほどに短縮された海外版ではその部分がごっそりと削られているとのこと。これはこれでテンポが良く評価が高いらしい。
犯人側の事情に時間を取るのは勧善懲悪主流の当時は珍しかったらしいが、それがこの作品を今でも楽しめる傑作にしている。
この姿勢は犯人役を高倉健が演じていることからも明白。様々な理由から社会と分断された四人(一人はおまけ)で国(相手は国鉄と警察なので)を相手に蟷螂の斧を振り上げる様は、犯罪とは言え感情移入せずにはいられない。「誰も死なない完全犯罪」を目指していたのも大きい。
反対に腹が立ってくるのが警察の様子。懸命に犯人を追う様子が描かれるが、正義側なら何をやってもいいという傲慢がにじみ出ているように感じる。身代金の受け渡しでは犯人逮捕のチャンスとばかりに気色だって、犯人側の指示を無視して猪突猛進、一味の一人を事故死させてしまう。新幹線が爆破されてもおかしくない状況を生み出して、悪びれずにまた嘘八百を並べ立てて口八丁手八丁。印象としては警察組織の方が悪役に思えてくるくらいである。まあこれも制作者側の意図なのだろうが――。
この内容で国鉄がよく協力を許したなあと思ってしまうが、実際国鉄との連携は断られたとのこと。
条件の折衝は行われたらしいが、現場が映画の魅力を損なう改変を拒否。映画会社側もすでに突っ込んだ資金を完成によってまかなうしかなく、結局セットやゲリラ撮影、盗撮などで進めていったらしい。
客席は精巧なセットで、座席などは本物を納品している会社に注文したとか。その会社、国鉄からこっぴどくしかられたとのこと。
様々な苦労の甲斐あって、協力なしとは思えない本格的な列車映像を堪能できる。
物語のラストは類を見ない潔さで断ち切られており、抜群にいい雰囲気。
これを見るためだけでも十分な価値があるだろう。
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