2019年11月29日金曜日

スペシャリスト

スペシャリスト [Blu-ray]

☆☆☆☆
~質に関わらない価値~


 1994年の米映画。爆破アクションと言おうか、ラブロマンスと言おうか……。さまざま要素が絡み合うと言うより好き勝手に各要素をぶち込んだ闇鍋爆弾ロマンスと言ったところか……。

 元CIAの工作員で爆破による暗殺のプロフェッショナルであるレイ(シルベスター・スタローン)の元にメイ(シャロン・ストーン)から暗殺の依頼が入る。幼い頃両親を殺し、今や町の有力者然としている三人を殺して欲しい、と。レイは固辞するがメイに懇願され、まずは素性を確認するため監視を開始する。メイのあまりの美しさにに引きつけられてしまい結局依頼を受けることになってしまうが、暗殺対象の警護人ネッドはレイがCIAをやめる契機となった事情のある人物だった――。

 まず出てくる感想は「ぜんぜんスペシャリストちゃうやん!」という事になる。寡黙な戦士の雰囲気で描かれるレイだが、メイの声に惚れてのぞき見で姿に惚れて、ころころ転がされる童貞くさいおっさんといわざるを得ない。ライバルのはずのネッドも中二病っぽい「僕イカレテますよ」演技がきついだけでその戦闘力は未知数のまま終わる始末。巧みに自分の立場を切り替えてでっち上げの話で周囲を煙に巻きつつ、ありえない機転と実行力を発揮するメイこそが御都合主義の申し子としての「スペシャリスト」だろう。

 しかし、このような映画が生まれた背景も、これが正しいのだという主張も分かる。
 スタローンは前年1993年に「クリフハンガー」「デモリションマン」で再び注目を集めており、シャロンは1992年に「氷の微笑」でセックスシンボルとなっていた。この二人が主演し、それぞれの持ち味を活かした映画が作れれば内容はどんな物でも良いというタイミングだったのだろう。レイは筋肉トレーニングを怠らないマッチョな爆弾専門家という筋肉が邪魔では無いかという設定だし、メイはいかにも男を籠絡するミステリアスな女。この二人のベッドシーンがあるとなればもう勝ちゲームの様相だったのだろう。
 時流を捕らえて売れる映画を出すというのは非常に難しい事だと思う。確実で簡単な事のように思われがちだが、実現するには幾つものハードルが存在したことだろう。その代償として質が損なわれたとしても納得である。
 分かりやすくいうと、これは旬のアイドル映画で、両スターの共演という内容はノスタルジックな視線において、今も何らかの価値を持っている。

2019年11月28日木曜日

ターミネーター2

ターミネーター2 4Kレストア版 [Blu-ray]

★★★★
~SFアクションの金字塔~

 1991年の米映画。1984年公開のターミネーターの続編となる。監督は引き続きジェームズ・キャメロン。

 前作の事件から10年後のカルフォルニアに再びターミネーター(アーノルド・シュワルツェネッガー)が送り込まれてくる。前作で標的とされたサラは息子ジョンに機械との戦いに備えた英才教育を施していたが行きすぎた行動から精神病院に収監。ジョンは里子に出されてハングレ状態。ターミネーターはジョン捜索を開始するが、それとは別にもう一人のターミネーターが送り込まれてくる。流体金属の体を自在に操り、姿形を変えながらこちらもジョンを目指して行動を開始。ハッキングで手に入れたお金でゲームセンターで遊ぶジョンの元に二人のターミネーターが到着した――。


 ヒット映画の2作目というものは非常に受け容れられるのが難しいものだが、ジェームズキャメロンは実にエイリアン2」と今作で輝かしい続編成功を収めており、この点だけでも特筆に値する。二つに共通して言えることは1作目で登場した要素の位置づけをうまくスライドさせて異なる関係性を作り出す事と、規模の圧倒的な拡大によるお祭感の演出であろう。
 エイリアン2では1作目では一体しか登場しなかったエイリアンを大量に登場させて「群れ」にし、さらに女王蟻ならぬ女王エイリアンを設定。海兵隊とエイリアン軍団の激突を構図として「今度は戦争だ!」のコピー。
 ターミネーター2では1作目の宿敵をあろう事か味方に据えて新型のターミネーターを追加。「ターミネーターvs人間」から「ターミネーターvsターミネーター」とした上に旧型と新型、剛と柔の対決をプロデュース。
 何かもう設定だけでときめくのである。
 
 流体金属の新型ターミネーターは当時としては出色のVFXで描かれており、イマジネーション含めて強烈なインパクトを残した。水銀のように銀色に流れる金属が人型になり質感を得て完全な擬態を行い、また体の一部を槍や剣のように変えて戦闘を行う。現在ではこれくらいの映像はテレビドラマでも実現されているが、当時は本当に驚いたものだ。あまりに気持ち良かったので劇場に二度も見に行った。
 映像だけで無く物語としても見所が多く、特にジョンとその保護者となったターミネーターの関係は父親を知らないジョンにとって父と触れ合うような形で描かれており感情移入させられる。タイムパラドックスにはあまり触れず、現在でのやり取りのみに集中しているのも安っぽくならなくて良い。
 改めて1と間を置かずに見てみると、1を踏襲している演出が数多くある事に気づく。有名なターミネーターのセリフ「I'll be back」であるが、1ではこれを受付に告げた後すぐに車で突入してくるというちょっとコメディーぽい使われ方をされている。2では緊迫したシーンで使われているが、このセリフの後車で突入してくる展開になっているのは同様。他にも1の最後で這いずりながら迫ってくるターミネーターの姿が2の最後でも同様に再現されており、ファンに嬉しいパーツが沢山ありそうである。

 この後「3」「4」「ジェネシス」とシリーズが続いたが2を最高潮として評価は下がっている。どれも楽しめる内容だが、確かに1と2程の親密感は無く、特別な作品にはなり得ていない。2の直系続編と銘打っていよいよキャメロン関与の高い「ニューフェイト」が公開されているが、いかな評価に落ち着くであろうか。

 関連作のリンク。3だけ感想ないんだ……。

◆シリーズ第1作『ターミネーター』 の自分の感想はこちら。

 
★★★☆☆
~演出の教科書~

◆シリーズ4作目『ターミネーター4』 の自分の感想はこちら。

ターミネーター4 スペシャル・エディション [Blu-ray]
★★☆☆☆
~ジョン・コナ―しっかりしてくれ~

◆シリーズ5作目『ターミネーター:新起動 ジェニシス』 の自分の感想はこちら。 

 ターミネーター:新起動/ジェニシス ブルーレイ+DVDセット(2枚組) [Blu-ray]
★★★☆☆
~極悪な予告編~

 ◆シリーズ6作目『ターミネーター:ニュー・フェイト』 の自分の感想はこちら。

ターミネーター:ニュー・フェイト [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
★★☆☆☆
~女子会もしくは同窓会~

◆同監督の傑作『エイリアン2』 の自分の感想はこちら。

エイリアン2 [Blu-ray]
★★★★
~相似拡大+α~

 

 

 

2019年11月27日水曜日

三度目の殺人

 三度目の殺人 Blu-rayスペシャルエディション

★★★★
~驚異のバランス~

 2017年の邦画。「そして父になる」「万引き家族」で知られる是枝裕和による法廷サスペンス。福山雅治と役所広司が主役を務める。

 弁護士の重盛(福山雅治)は同僚弁護士からとある殺人事件の国選弁護の担当を頼まれる。依頼人の三隅(役所広司)は30年前にも北海道で殺人事件を起こしており、服役の後勤めていた会社の社長を川辺で殺した容疑での裁判だった。殺人についてはすでに自認しており、見込まれる死刑から無期懲役への減刑を目指すのが重盛に依頼された内容となる。
 真実の解明ではなく被告の最大利益を目指すのがポリシーである重盛は減刑へのとっかかりを求めて三隅の過去から現在に至る流れを再調査するが、突破口を見出す度に三隅の供述はふらふらと変遷し、つかみ所がない。やがて一転二転する供述は裁判の前提とされている範囲まで立ち戻り、裁判官、検察と足並みを揃えて有利な判決を得ようとしていた重森の思惑を崩しさる。三隅との対話、見えてくる事実との対峙により、重盛は事実と真実、裁判で裁かれることと裁かれないことといった領域に踏み込まざるを得なくなった――。

 初めは単純に見えた事件が情報を集めるほど複雑になる流れはスリリングで先が読めず面白い。特に役所による三隅の演技は素晴らしく、人格が複数宿っているかのようなつかみ所のない不気味さの中に、何か超越者めいた雰囲気を感じさせてくれる。それと対峙する重盛を演じる福山雅治も負けてはおらず、二人の存在感が拮抗。このバランス感は作品上非常に重要で、どちらかが明らかに勝ってしまうとまずい構成になっている。
 というのは、この物語で最も重要な焦点は「なぜ三隅は殺人を犯したのか」であり、その結論は作品の中で明示されていない。重要そうな断片は数多く示され、それぞれが関連をもって方向性を示してはいるのだが、複数のストーリーラインが絶妙のバランスで併存しているのである。重盛と三隅のバランスもその中にある。この、「結論を出さない」という姿勢はそんじょそこらの「結末は視聴者にゆだねます」のエピローグや今後の展開を描かないといったものでは無く、三隅をどのような人物として理解するかという映画全編をそのまま差し出している。この葛藤は重盛の葛藤と同値であり、他人には差しはかれない部分を裁かなければならない裁判という存在の限界を突きつけてくるのだ。
 「裁判は真実を明らかにするものでは無い」と断言していた重盛は、自分が求刑をいかに軽減するかというプラスの方向しか見ていなかった事に気づき、反対に真実と関係なく死を宣告される事もあるという状況を目の当たりにする。そしてそれに自分も加担した事で人が人を裁くことの恐れと罪を自覚して物語を終える。重盛が最終カットで物語を象徴する十字架にたたずんでいるのはこのためだと思う。

 この結論しないというバランス感覚は凄まじいもので、よくぞ最後まで綱渡りから落ちずに完走したものだと思うが、架空のイメージカットを現実と混在させて視聴者を混乱させたりミスリードを誘うのはちょっと卑怯かなと感じる。またこれもバランスを取るためだろうが警察組織があまりに無能で役に立たない。いくら自供しているからといってその裏付けを行わなかったり、少し調べれば分かる周囲の状況に全く無関心というのは実際はともかく物語として引っかかりが大きい。

 見終わった後すっきりしない感覚に陥ると思うが、今作はそのために作られているので正しい反応だと思う。
 何だったんだろうと考える際は、「三度目の殺人」というタイトルが示す殺人が誰が誰を殺したものかというところからとっかかってみると全体を見わたしやすくなるだろう。



2019年11月26日火曜日

コンカッション

コンカッション [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

★★☆☆☆
~置き換えて咀嚼すれば~

 2015年の米映画。アメリカンフットボールの選手に起こるCTE(慢性外傷性脳症)を巡る社会派ドラマ。実話を元にしている。
 

 海外からアメリカにやってきた検視官オマル(ウィル・スミス)の元に、元NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)のスター選手の遺体が届く。まだ50才だというのその脳はアルツハイマーのような劣化をきたしていた。調査を続けるうちに元NFLプレイヤーに同様の症状が多く見られる事が分かり、慢性的な脳への衝撃が時間をおいて問題を発生させている事が判明。オマルはNFLにこの問題を問いただそうとするが、巨大権益で守られた牙城はまるで揺るがない――。

 コンカッションは脳しんとうの意味でまさに本作そのものである。往年のスーパースターがCTEの障害によって悲劇的な生活を余儀なくされているシーンは「あしたのジョー」でパンチドランカーにおかされたカーロス・リベラを見る思いである。

 アメリカの国技でありスーパーボールなど含めて圧倒的な経済規模を持つアメフト。そのスポーツビジネスの根幹を揺るがす告発に対しNFLは「ヘルメット被ってれば大丈夫」など適当な受け答えでオマルを無視しようとする。アメフトはもはやアメリカのアイデンティティであり、それを傷つけるような行為は非国民だというのだ。
 オマルがこの件に強く当たれたのも、海外からきた彼にとってアメフトに対する思い入れが薄かったからであろう。そして、自分にとっても薄いのである。日本ではメジャーなスポーツでは無く、基本的ルールも知らない者の方が多いだろう。アメフトのスター選手も知らない。したがってこの映画はアメリカ人でないと意味が無いかと言えば決してそんなことはない。巨大な組織に単独挑んでいくオマル医師と彼に影響されて正しい選択を選んでいく人々の姿には普遍的な感銘を受ける。なにより既得権益と上下関係でガチガチになった巨大組織にまつわるきちがいじみた騒動は日本でも枚挙にいとまがない。アメフトのことがよく分からなくても、身近なヒューマンドラマとして充分に楽しむことが出来るだろう。悲しいことではあるが身近なのだ……。

2019年11月25日月曜日

クレイマー、クレイマー

クレイマー、クレイマー [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

★★★★
~フレンチトーストにはじまりフレンチトーストに終わる~

 1979年の米映画。ダスティン・ホフマン主演で描く離婚した男女の息子を巡るヒューマンドラマ。
 一時期民放の映画枠で頻繁に放映されており、古い記憶に引っかかっている同年配は多いだろう。題名の意味をずっと取り違えていて、初めは「すっごく泣き叫ぶ」みたいに思っていた。「cry」の活用だと思っていた模様。次には「クレームを入れる人の戦い」にうつる。自分の主張をぶつからせて裁判で争う姿になかなかぴったりかもしれない。で、ようやく理解した正解は父親「テッド・クレイマー」と母親「ジョアンナ・クレイマー」の争いだということ。原題は「Kramer vs. Kramer」なので、これを見れば一目瞭然であった……。

 仕事中毒で家庭を顧みないテッド(ダスティン・ホフマン)は自分も社会に出たいと願う妻ジョアンナの気持を一顧谷せず、二人の溝は深まる一方。ある日とうとうジョアンナは5才の息子ビリーも置き去りに家を出てしまう。妻と母に捨てられた形の二人は共同生活を試みるが、ジョアンナの担っていた役割は大きく暮らしはなかなか安定しない。ぶつかり合い、怒鳴りあいながら何とか協力し、二人の絆が深まっていく。そんな折、唐突にジョアンナが養育権の奪取を目指して裁判所に申し立てを行った。奇しくもテッドは会社を首になった直後であり、どうにも不利な状況である――。

 父子のやり取り、徐々に深まっていく絆の表現が素晴らしい。5才の息子を持つ自分にとってまさにクリティカルな内容であり感じるところが多々ある訳だが、息子ビリーの演技が全く素晴らしい。演技というより自然な振る舞いがうまく引き出されているという感じだろうか。
 当時は母親ジョアンナがビリーを置いて出ていったというのが信じられなかったが、改めて見ると家事育児に追われて自分という存在が圧死しそうになっている母の姿は確かに追い詰められており、半ば病的な雰囲気で仕方がないと思える。出奔して生活が落ち着いたらすぐ取り戻そうとする方針転換の唐突さにも嫌悪感を抱いていたが、そりゃそうするよなあと納得させられてしまう。父子の生活を勝手に引き裂こうとする悪役としてしか見ていなかったが、彼女の切実さにも心を打たれる。妻にもきちんと心を配り、育児の苦労を分かち合っていかなければならないと改めて心に誓う。
 経験によって作品から受ける印象が変わるのは当たり前であるが、今作は自分にとって特に変化が大きかった。
 
 名シーンとして心に残っているのは、やはり枯れた木々の並木道での母子の再会シーンだろう。父に気を使いながらも母の元に向かうビリーの姿。
 そして外せないのはフレンチトースト。最初のフレンチトーストと、最後のフレンチトースト。美しい対比、物語を象徴する名シーンだ。

 現時点でさえ公開して40年。もはや時代を超えた名作だと断言できる。
 
 ところで今作は1979年公開作品だが、当時でさえこういった親権裁判がアメリカで大きな社会問題となっていたということだ。映画の軸となる題材は世情を強く反映する。昨今の映画で最も重要な愛情関係は親と子の物になっていて、これに比べれば夫婦間、恋人感の愛情は永続しない一過性のものという扱われ方が多い。確かに基本設定が「離婚した夫婦」と「その子供」となっている映画のなんと多いことか。もう離婚は当たり前なのだ。
 こういった傾向は米⇒日本の順番でタイムラグをもって伝搬する。一昔前は洋画の離婚設定に違和感を感じていたが、いまや当たり前に受け容れてしまっている。日本でも離婚は当たり前の存在になったということだ。脳天気と言われても、男女が惹かれあって結ばれるハッピーエンドが自分は好きだ。二人は末永く幸せに暮らしましたとさ――。


2019年11月22日金曜日

フラットライナーズ(2017年版)

フラットライナーズ [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

☆☆☆☆
~1990年版を見た方が良い~

 2017年の米ホラー映画。1990年に公開された同名映画のリメイクとなる。
 1990年版は「キーファー・サザーランド」「ケヴィン・ベーコン」「ジュリア・ロバーツ」といった豪華俳優陣のわかかりし姿が見られる作品で、こちらはホラーというよりサスペンス的な仕上がり。さらにいうならキリスト教の精神を強く感じさせる教導的な内容だった。

 医学生であるエレンは臨死体験した患者の経験談に興味を持ち、自ら人工的な臨死体験を得ようと計画。仲間に協力してもらって首尾良く臨死を体験したところ、突然天才的な記憶力を発揮するようになった。これを見た仲間達も臨死を体験。それぞれに素晴らしい能力を得るが同時におかしな幻覚を見始める。それは各人が抱えていた罪の意識と関係があるようで――。
「天才的な能力を獲得する」という下りは1990年版には無く、全員が純粋に臨死の体験そのものを目的としていた。随分即物的になったものだ。他にも仲間同士で適当に体を重ねる展開も追加されており、1990年版にあった厳かな雰囲気がまるで無くなって、ただの出来の悪いホラー映画に成り下がっている。実験会場が修復中の美術館から非常用の医療施設になったのも雰囲気がない。

 上記に加えてオチも異なっており、リメイクというより同じ題材の別作品、リブートといった方が良いだろう。そしてそれは失敗している。

 それはそうと「フラットライナーズ」というのはなんだか色々なイメージを想起させる良い題名だね。