~だまし絵のようなタイムリープ~
★★☆☆☆
2016年のハンガリー映画。日本では劇場未公開なので情報が少ないが、ネット配信されているので視聴者はそこそこ居る模様。
病院からの薬品横流し運搬役のアダム。ボスを裏切って薬品を横取り、高飛びして大金を稼ごうと画策するが、恋人アンナはそれを拒む。
動き出した計画とアンナとの狭間で懊悩するアダムは1本のビデオを手に入れる。そこにはボスに銃殺される自分の姿が映っていた――。
アマゾンプライムの字幕で視聴。ハンガリー語の響きが独特で違和感が強い。ハンガリー語を聞く機会はそうそうないのだからそれも然りだが、意味が分からないにしても英語には慣れているんだなあと思う。
同じ時間をくり返して状況を変化させていくというループ物のフォーマットを取っているが、その表現において他に類を見ない独自性を発揮している。一般の時間移動イメージでは輝く特殊エフェクトに飲みこまれたり、反対に気を失ったり(死んだり)する。ところが今作はそういった劇的なエフェクトも状況もなく、いつの間にか時間をさかのぼってしまっているのだ。病院の廊下を歩いて角を曲がると以前に目撃した状況を違う立ち位置から見る事になったり、敵から逃げているうちに、以前も見たトラックの荷台に、今度は乗ることになっていたり……。この自然なリープが、なんともメビウスの輪を指でなぞる感触に近いのだ。表と裏に劇的な分岐点はなく、気がつけば表であり裏であり。
さらに今作では過去にもどって過去を変更する、転轍機を変えるようなタイムマシン物では無い。起こったことは何度くり返しても起こるが、その出来事の前後や詳細が徐々に明らかになっていく(自分が体験する)という形だ。絡まったメビウスの輪を、順序よく一筆書きに描いて解きほぐしていくのだ。
見ていくほどに謎が生まれ、解かれていく。切り替わり無く変転していく万華鏡を見ているような気分、というのも近い。
厳密に分析すると、おそらくこの物語には矛盾点がたくさん見つかると思う。だけど今作は緻密な構成を楽しむものでは無く、リアルタイムで生手品を楽しむといった趣向の作品だ。90分と短くまとまっているのも無理が無くて好感触。
ところで、今作では過去の自分ときっちり関わることがほとんどない。短い時間帯の狭い範囲を何度も体験するのですれ違ったり、壁越しに存在を感じたりするが、それがなんだかサスペンス。今そこにいたのは過去の自分だな、といった追いかけっこなのだ。最後にはくり返していた部分を突破した雰囲気となるのだが、実はそこまで行っても、まだ自分が体験していない自分が残っている。
おそらく描かれた物語は途中までであり、以降もループが続いていくといった示唆で終劇となる。バッドエンドの味が強いが、何とかなるのだろうという楽観も残る。多分、折り返し地点くらいなのかな――。アダムがんば!
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