★★★☆☆
~動きの魅力の功罪~
2017年の日本アニメーション映画。監督は『マインド・ゲーム』『ピンポン THE ANIMATION』の湯浅政明。中学生男子と人魚の女の子の交流を描く。
東京出身の中学三年生である足元カイは、日無町の父の実家で、父・祖父と三人で暮らしていた。日無は人魚の伝承のあるひなびた漁港だった。カイは感情を表に出さず、学校の進路調査には何も書かずに提出した。
夏休みが近づいた頃、カイは自作の打ち込みを動画投稿サイトにアップする。それがきっかけで、同じクラスでバンド「セイレーン」を組んでいる遊歩と国夫からメンバーに誘われる。<Wikipediaより>
思いついたシチュエーション、レイアウト、画面的な喜びにあまりに引きずられ、物語全体としてのまとまりは後回しにされている印象。骨子は押さえられているので破綻した印象は少ないが、もっと丁寧に扱ったほしかったエピソードは多い。その意味でつじつまが合っていない(道理がよく分からない)部分は多く残る。だいたいは綺麗に袋に収まったが、ごつごつといびつな形が残ってしまったな、という感想。
切れの良い動き、胸が空く映像。アニメーションの気持ちよさを堪能できる。小学校二年生の息子も最初から最後まで飽きることなく見終えることが出来た。107分というのは結構な長さであり、全体的なテンポの良さと適切な間隔で現れる見所がなせる技だろう。ちょっと怖いシーンもあるが、大丈夫だったみたいである。
一曲の歌を中心に据えてまとめたアニメ作品としては新海誠監督の『秒速5センチメートル』が有名で、これなどはクライマックスの映像とあまりに合致するため山崎まさよしの曲「One more time, One more chance 」のプロモだとか言われたりもしている。今作で取り上げられている斉藤和義の「歌うたいのバラッド」は映画全編でまんべんなく使用されており、映画のテーマにもよく合致しているため劇伴(映画の音楽)としてきちんと機能している。実際に出てきたりはしないが、作品世界の中にも「斉藤和義」が存在していて、その曲を主人公がコピーするという立て付けになっている。
監督の湯浅政明の、観客を引き寄せる握力が非常に強いことを、良くも悪くも再確認させられる。
動く気持ちよさとは半ば暴力的な引力で視線を引き寄せる。だから観てしまうし、一定の満足を得られるのだが、やはり監督は根本がアニメーターなのだろう。動く気持ちよさに自身も逆らえず、シナリオよりも重視してしまう。ことシナリオとして考えた場合、オリジナル作品に首肯できる作品が少ないのだ。決しておもしろくないわけでもなく、駄作でもないが、まとまりきらないのだ。
むしろ原作物に対して、元からある基盤に魅力をどんどんふっかけていくことで名作傑作を生み出しており、こちら路線の作品を期待する。
<原作あり>
『マインド・ゲーム』『四畳半神話大系』『ピンポン THE ANIMATION』
<オリジナル>
『ケモノヅメ』『カイバ』
ともあれ非常に精力的に数多くの作品に関わり、実際に排出している湯浅監督は本当にすばらしいアニメーション監督だと思う。
3DCGではなく、線画をCG補完して滑らかに動かす技術を生かした作画を推し進めているようで、今作でも使用されている。CGというと湯浅監督のテイストとは一見相容れないように感じるが、今作の用法は動画の作成部分についてのCG。アニメーションはキーとなる原画を動画でつないで構成しているのだが、動画作成の部分をCGで行っているため、原画が押さえたアニメーションの肝を活用しつつ、非常に滑らかな動画を生成。結果、質と密度の高いシーンを量産している。
物語としては自分の殻を破って羽ばたいていこうとする少年の姿を描いており、普遍の共感を多くの人に(うっすら)感じさせるだろう。
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