2019年11月8日金曜日

海底47m

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★★★☆☆
~溜めと抜き、「恐怖」のカクテル~

 2017年イギリスのパニックスリラー。
 

 美人姉妹のリサとケイトはメキシコの観光地でバカンス中、知り合った現地青年に「ケージ・ダイビング」をすすめられる。ホオジロザメを魚の血でおびき寄せ、それを鉄柵の中に入ったまま海中で鑑賞するというスリリングなアトラクションだった。恋人から「退屈な女」と言われ捨てられたばかりのリサはケイトの積極的な誘いもあって二人でチャレンジすることになる。
 初めは問題なく間近で見るサメのスリルを楽しんだ二人だったが、ケージをつるす引き上げ機ごと船からもげ落ちてしまいそのまま海中に沈むことになる。海底に叩きつけられたショックで出入り口は開かなくなり、ケージ回りの照明こそ生き残っているもののボンベの酸素は有限、海上との無線通話も深度がありすぎて届かない。しかも海上までには多くのサメが待ち構えている。
 震度計が示すその場所は、海底47メートル――。

 まずは題名で微妙な印象を受けざるを得ない。海底47メートル。深いのか、浅いのか。素潜りの世界記録は122mらしいので、何とかなるようなならないような……。この微妙な設定が今作の恐怖を生む基盤になっているのだが、題名としてみるとなかなか引きが弱い。逆にそれがなんだろうという興味を引くのかもしれない。
 美人姉妹とサメと来れば、結末はともかくお色気満載だろうと見始めてみると、お気楽なバカンス気分は序盤のプール映像くらいでその後はほとんど水中マスクをかぶっている。顔全体を覆うガラスの広いタイプなので表情も見やすいが、お色気にはほど遠い。また、思いのほか恐い。サメによるパニックというよりも海底の孤立感の方が恐怖の主体となっていた。

 47メートルも一気に潜って普通に活動するなんて可能なのだろうか、とか、ボンベの酸素よりも普通の水着しか着ていない二人にとって低体温の方が問題になるのではないだろうか、など疑問は浮かぶが海底の密室劇としてそのシチュエーション特有の問題が次々発生するので設定としてすぐれていると思う。
 海底に落ちてからは姉妹二人しか登場せず、どちらか一方の酸素が足りなくなったり、一人だけで救援を求めにいったり、二人しかいないのにそれも分断される展開。心細さがさらに増幅される。酸素欠乏による真綿で首を絞めるような緩やかな絶望と、突然襲いかかるサメの一気に立ち上がる恐怖。決定的シーンのための前振りを引っ張って引っ張ってからの……ドーン! おきまりといえばそれまでだが、限られた材料を上手く組み合わせて緩急良く配置。まるで恐怖を上手く混ぜ合わせたカクテルのようで飽きさせない。特に引っ張りと決定的瞬間の時間比率は差が大きく、分かりやすくいうとサメは一瞬しか出てこない。予算の都合なのかもしれないが、スリラーとして実に効果的。
 
 ラスト回りの展開については最後までサービス満点だなという感想。気が利いているともとれるし、そうしなくても、とも思う。突然怒濤の展開となるので結末がちょっと分かりにくくなっているが、普通に演出などから内容を追うなら、二人無事には戻れなかった辛い展開の方が本筋なのは疑いようがない。


 

2019年11月7日木曜日

バレット

Bullet to the Head [Blu-ray] [Import]

★★☆☆☆
~ドヤ顔地獄のアクションコメディ?~

 2012年の米映画。
 大雑把で時代遅れながら実戦では圧倒的な力を発揮する歴戦の猛者。スタローンを当て書きしたようなぴったり具合に、これは「ロッキー」や「エクスペンダブルズ」のような「スタローンの、スタローンによる、スタローンのための」映画なのかと思いきや、「レッド・ブル」「48時間」のウォルター・ヒル監督によるフランス漫画原作の作品だった。
 

 暗殺を生業とするジミー(シルベスター・スタローン)はいつものように相棒ルイスと仕事を行うが、その帰路に何者かに襲われルイスは刺殺。復讐を誓うジミーの前に現れたのがスマホでの情報収集を得意とするテイラー。彼はとある事件を追って遠方からこの地に派遣されており、現地警察とは独立して捜査を行っていた。
 テイラーの情報が必要なジミー。現地ガイドと実戦担当が必要なテイラー。お互いが超法規的(法規無視的?)に手を組んで事件の真相を追うことになった――。

 狙った味なのだろうが2012年とは思えない懐かしい感じの演出、展開、大味さ。こういうのも悪くないわあ……と開放感を感じる内容。
 殺し屋ジミーの後先考え無さがもはや意表を突かれるレベルで、一周回って新しい。コンビ組んだ刑事の前で何の遠慮もなくバンバカ容疑者を銃殺していくんだからすごい。撃ち合いの末とかでなく、拉致して絞り上げて銃殺とかも平気でやる。ウイスキーかっくらった後で運転も当たり前。こういう行為さえ最近の売れ筋映画ではとんと見かけなくなっている事に改めで気づかされた。やらかした後は、あれ、それ上手く言えてる? というようなよく分からん言い回しのキメ台詞(?)でにやりドヤ顔たまらんといえばたまらん。

 刑事テイラーは筋骨隆々なのに特に大きな見せ場無くジミーの影を踏んで歩くだけの陰キャ状態。暗殺者と刑事のコンビというより暗殺者に引きずり回される役割でそもそも得意の情報収集も、警察のオペレーターに「おしえてグーグル先生!」みたく質問投げて聞くだけ。ただの伝言ゲームの中間役なのにドヤ顔で威張っているのだからちゃんちゃらおかしい。しかも敵方に情報をどんどん流してしまう能無し具合。結局最後まであまり役に立たず、何人か撃ち殺したかな? 程度。そのくせジミーの娘に手を出して最後にはわざわざジミーに「とても深い関係になった」とか出来てます宣言。ここで容赦なく撃ち殺されていれば作品として1本筋が通ったかもしれないが、ジミーはまたよう分からん台詞でドヤ顔のエンディングたまらん。

 見せ場として印象的なのは他で見たことがない「斧vs斧」の戦闘。パワー炸裂で一撃必殺感がとても強く、緊張感のある戦闘を楽しむことが出来る。
 他にはスタローンの何気ない仕草。カウンターで酒飲んでキョロキョロするだけのシーンがすでに魅力的でスターのオーラを感じさせる。

 この作品は同監督の「48時間」的なコメディだったのかもしれない。だが、う~ん、それには主演二人にコメディっぽさが無さ過ぎるよね。いや、スタローンには根底で何をやったも面白みがあるのでひょっとして向いているのかもしれないが、ロッキーやランボーでカッコイイ姿から入ってしまった自分などには笑うのがはばかられてしまって……。自分の敬愛する田中邦衛を連想してしまうからかも。

 ――いや、読んでる人いるのかというこのブログの状況をバリヤーに書いてしまうと、スタローンは昔からどんな役をしても障害者っぽい。実際「言語障害」と「顔面麻痺」の障害持ちということだがそれだけではない、動きや行動判断(役柄)含めて、そういった雰囲気、オーラが出ている。だからこそ下克上的な物語の爽快感が他の役者よりも格段に強いのではないかと思うが、同時に、「笑ったら駄目!」という縛りが自分の中でオートマチックに発動されてしまっている。強固に積算されてきたモラルが、スタローンのコメディーを阻んで、だけとコミカルなのでお腹がこそばいというか苦しいというか、独特の反応が彼の作品では立ち上がってくるのだ……。そんな風に感じている人、他にもいるのではないかなあ……。


2019年11月6日水曜日

96時間

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★★★☆☆
~金科玉条を得た獣~

 2008年のフランス映画。脚本にリュック・ベッソンが名前を連ねている。
 

 元CIA工作員のブライアンは離婚して別居している一人娘キムの良い父であろうと奮戦しているが、危険に合わないようにと様々な制限を言いつけては敬遠される事をくり返していた。ティーンエイジャーのキムはそんな親心を知らず、友人アマンダとパリ旅行を企画。ブライアンは渋々これを了解して送り出すが、二人は脇の甘さからパリに着いたとたん襲撃を受け、外国人を誘拐し売春強要する組織に囚われてしまう。
 接続したままだった携帯電話で一部始終を聞いていたブライアンは元同僚と共に犯人の当たりをつけ、単身パリへ向かった。誘拐事件被害者の生存可能性が高いといわれる制限時間は――96時間。

 時間制限があるため、正当な手順を踏んでいては間に合わない! 自分で娘を救うしかない! という前提がドカンと爆誕し、ブライアン個人VS犯罪組織の図式が形成。娘の命のためなら法を犯そうが無視という姿勢は、刑事(刑事じゃないけど)物にありがちな法遵守の縛りから解き放たれた猛獣というおもむきで非常に爽快。各所で事件を起こすことになるので警察にマークされていくが、一般市民にはそれほど迷惑をかけていないので嫌悪感もない。

 娘を救うために! ともかくこの単純きわまりない目的が非常に強く、分かりやすい。狂ったようなブライアンの猛進もやり過ぎに思えるような容赦無さも全て納得させてしまう。普通なら御都合主義に過ぎて冷めそうなピンチからの脱出シーンも、娘の無事に直結するため「良かった!」と嬉しくなってしまうのである。まるで水戸黄門の印籠のような力で映画全体が一つの力にまとめられている。

 娘の身柄は追っても追っても次の場所が示される逃げ水のような展開。様々なシチュエーションでブライアンの活躍を見る事ができる。その無双ぶりは、事件前にキムの義理の父(元妻の再婚相手)の裕福さに惨めな思いをするブライアンが描かれていることでさらに爽快感が増している。こういった物語全体としてのタメは非常に重要だと感じる。

 続編が二作あるようだが、本作の「娘のために」といった中心軸がきちんと用意出来るかどうかが重要だと思う。また娘が誘拐されるわけにも行かないし、どういった手立てがあるだろうと想像するのも楽しい。機会があればこれらも見てみたい。


2019年11月5日火曜日

ホワイトハウス・ダウン

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★★★★
~ホワイトハウスでダイ・ハード~

 2013年の米映画。「GODZILLA」「インディペンデンス・デイ」「紀元前1万年」で知られるローランド・エメリッヒ監督。
 監督作品は良くも悪くもおおらかな設定、展開が映画ファンの突っ込み心を刺激するため、基本的に評価は低めであるが、その特性を「予期できない意外性のある展開」と受け取ってしまえるなら、娯楽作品として非常に高品質の作品を排出し続けている。
 今作は身構える必要の無い娯楽アクション映画として非常に面白い作品だ。
 
 問題山積みの冴えないおっさんがテロ事件に巻き込まれて巨大施設に監禁状態。こそこそ動き回って反撃。
 
 内容はまさにダイ・ハードで、その面白さも負けてはいない。
 舞台はアメリカの政治中枢機関としてあらゆる映画にも登場してきたホワイトハウス。観光客のツアーも組まれる開かれた施設でありながら、万全の防御設備がプロフェッショナルにより運営される難攻不落のアメリカの象徴。規模も大きくギミックも様々。庭を含めるとシチュエーションも多用で、まさに追いかけっこやかくれんぼに絶好の環境である。
 ここが一気にテロリストによって陥落するのだが、なぜこうも簡単に……という部分のリアリティについては、示される原因で自分的には充分納得できた。主人公の娘の行動や、解決を図る外部の者たちの判断など、なんでやねん! の部分は非常に多いが、それらもキリキリと悪化していく状況の演出として十二分に作用しており、不利な展開に気をもむ観客の反応の範疇だろう。いきなり戦闘機で攻撃しようとしたり、特殊攻撃部隊がほぼ独断でヘリで駆けつけたりと無茶苦茶なのだろうが、それによって起こる状況が面白いのでよっしゃよっしゃと楽しんでしまう。

 登場人物は多いが上手くキャラ付けされており、誰もが想像の余地ある興味深い人物として演出されている。特にテロリストのハッキング担当者とホワイトハウスツアーのガイドは出番こそ多くはないが要所要所で存在感を見せてくれる。こういった人物が、作り話を魅力的にしてくれるのだ。
 
 ホワイトハウス内でのいざこざと別レイヤーで進む大統領権限の自動移行とその顛末も非常に面白い。テロリストの本当の目的と相まって最後まで物語を引っ張ってくれる。
 
 自国の官邸が襲われるとなるとリアリティラインが厳しくなるのは当然なので、米国民には楽しみにくい部分が多いのかもしれないが、もとより映画でしか見たことのない、重要施設くらいの認識しか無い一般的日本人の自分にとっては、全編興味深く楽しむことの出来る娯楽大作だ。


2019年11月4日月曜日

15ミニッツ

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★★★☆☆
~デ・ニーロがキュート~

 2001年の米国映画。常軌を逸した犯罪者がテレビメディアを巻き込んで起こす犯罪の一部始終が描かれるアクションサスペンス。
 
 ニューヨーク市警の顔としてメディアに頻繁に登場する有名刑事エディ。消防署員の犯罪調査係であるジョーディ。かつての犯罪仲間から分け前を回収するために現れたエミルとウルグ。
 三者三様のメディアに対するスタンス。それら全てを飲みこんでいくメディア、つまりは情報を希求する民衆。結局のところ「有名でさえあれば犯罪者だろうが刑事だろうが構わない」というルールに支配され、恣意的な情報に操られる社会に問題提議する内容となっている。
 
 刑事エディを演じるロバート・デ・ニーロがやはり魅力的。メディアを疎ましく思いながらも上手く利用するという老獪な刑事役にピタリである。取材で見知ったであろう女性キャスターとねんごろだが、いざプロポーズしようとしてなかなかうまくタイミングを取れない純情な側面もキュート。
 彼に比べると若手の調査員ジョーディはどうしてみ魅力が薄く感じられる。理想を掲げるものの、様々な状況に揺り動かされ、一貫性に欠ける行動をくり返してしまう。
 サイコ犯罪者エミルとウルグは行き当たりばったりながら、運なのか能力なのか、社会の隙というか痛いところを上手く突いて犯罪を繰り返していく。感情移入しようもないが、何をするのか分からない不気味さ、理解できないこだわりが生み出す悪の一貫性が吸引力を持つ。特にウルグが最初からずっと回しているビデオカメラの映像は、本人のサイコっぷりを遺憾なく表現しているし、シナリオ的にも重要な役割を担っている。暴力的映像が価値を持つテレビの事情を映画で見るという入れ子構造は、意味の有無はともかくめまいがしそうだ。

 作品としてはまさかの主要キャラ途中退場という意外な展開、この話この後どうまとめるんだよ、というとっ散らかり具合からの力業で何となくまとまったように終了。オチはともかく驚きは大きく、それだけで観る価値はあるかも。

2019年11月1日金曜日

鍵泥棒のメソッド


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★★★★
~伏線が編み上げる物語~
 
 2012年の邦画。監督は「アフタースクール」で映像の叙述トリックを見事に決めた内田けんじ。
 

 完全無欠の暗殺者コンドウ(香川照之)とひょんな事から立場が入れ替わってしまった売れない役者桜井(堺雅人)。
 記憶を失い貧乏生活で己を探すコンドウ。お金を手にしたが暗殺者としての役割を強要される桜井。
 これに、結婚することを周囲に宣言してから婚活に突入する脅威の計画魔キャリアウーマン水嶋(広末涼子)がからんできて――。

 もうこの設定と役者陣だけで面白そう感がすごい。
 さらに映画を観ていて「脚本がすごいなあ」と思う事はほぼ無いが、この作品ではそれがひしひしと感じられた。情報の出し方とその分量が非常に的確なのである。監督脚本が共に内田氏なので、脚本と演出が一直線に繋がっていることもそう感じさせる理由だろう。
 画面の端で写っている物や行動が、絶妙な違和感で記憶に残り、それがテンポ良くこまかく回収される。伏線というには物語に絡まないような情報が蜘蛛の巣のように張り巡らされ、登場人物の人柄、これまでの人生が手触りのように伝わってくるのだ。
 小さな伏線が寄り集まり、大きな伏線となって物語に驚きと発見を絶えず注ぎ込んでいく。そうこうしているうちにきれいなエンディングに至り、本当に気持ち良く手のひらで転がしてくれる。
 
 欠陥なのか優位点なのか分からない特徴を持つ特徴的な人物達が、己に誠実に動き回った結果巻き起こった騒動。主要キャラも脇役も、全員が丁寧に描かれ、愛すべき存在となっている。
 面白い映画を観たなあという清々しい達成感。幸せな気持ちになれるオススメの一作。