2019年9月30日月曜日

人喰猪、公民館襲撃す!

☆☆☆☆
~失敗の吹きだまりのような作品~

2011年の韓国映画。
健康ブームに乗って都市部から週末農場への来客が増えてきた田舎町。
突如現れた巨大猪が次々と村人を襲い捕食していくが、儲けたい大手農家と市長の結託が対策を後手にする。
それに立ち向かう、これまた都市部から田舎に追いやられた警官。
伝説の猟師や女性研究者と力を合わせて猪に立ち向かっていく。

最初に言い切ると、とんでもない映画だったよ、と人に話すためだけに存在するような作品。

スケールの小ささ。それなのに地に足のついていない展開。
ギャグは滑りすぎて、どこが冗談か判別できない不毛な雰囲気が全編を覆う。
猪のCGは健闘している気もするが特筆するほどではない。
警官の母親が老人ぼけである事。
伝説の猟師が実は大したことのない口だけ存在である事。
隣人が狂人である事。
この設定いる? という要素が満載で、そのどれも上滑りして意味をなさない。

もう、何が意図なのか分からないむちゃくちゃ具合で、それは最後の最後まで一貫している。
こういっては何だが、製作者(監督?)は頭がおかしいのではないだろうか。
他のスタッフはその製作者に逆らえないなにがしかの理由があったのだろうか。

厳しく書きすぎると上記になるが、香港、韓国辺りの映画のまずい部分のみをつなぎ合わせた感じ、とも言える。
バイオレンスとギャグが混ざっており、ギャグがきつい。特にだらだら同じネタを引っ張る感じが顔を背けたくなる。
「少林サッカー」などチャウ・シンチー作品も似た感触がある。初期ジャッキーの作品もオカマネタとかかなりきつい。
ただ、両者はそれをコントラストにするように魅力的なシーンが多数あり、今作にはそれが無かったと言うことなのだろうか。

弟に「ひどいよ」とDVDを託されて見た作品であるが、確かにそれ以外何も言えん。

2019年9月27日金曜日

マイノリティリポート

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★★★★
~隙のない熟練された技術~

トムクルーズ主演、スピルバーグ監督の近未来サスペンス。2002年の作品。
未来予知がシステムとして確立され、それを元に犯罪する前に犯罪者を取り締まる警察機構が存在する社会。
予知を元に犯罪者を取りしまる優秀な刑事ジョンだが、ある日の予知はジョンを殺人犯として告発していた――。

これだけでもういろんな展開が想起されてワクワクする。
話は二転三転の最後まで飽きさせない作り。
スピルバーグは「アクション映画は、もう作り方が分かったからいい」的なコメントと共にアクション映画から足を洗う宣言をしたという記事を読んだが、確かに製作者に掌で転がされているような心地よい映像体験。

特筆すべきは、近未来のテクノロジー設定。
新規性を持ちながら、現代技術の延長線上にあるような機器、インターフェースの数々。
自動運転前提で、居住空間となった自動車。なんと壁面も移動するが、居住部分は水平を保つ。
様々な資料を扱うのAR的な空間ディスプレイをハンドジェスチャーで掴んで配置。映像資料の時間を戻したり送ったり。
未来予知を行う「特殊な人間」を収める機械と、やけにアナログな手法でもたらされる予知。

2002年の映画だというのに、今見ても先進的で違和感を感じない。
それもそのはず。これら設定は当時の学者やデザイナの参加、協力の下に考案されたものだという。

シナリオも、演出も、役者も、デザインも、世界観も――。
隙のないみごとな作品で、スピルバーグの引き出しの多さには圧倒される。

ジュピター


★★☆☆☆
~あのマトリクスの監督作品!~

2015年公開のSFアクション映画。
女性主人公「ジュピター」はシカゴで清掃の仕事をして暮らしながら、さえない毎日を覆す何かを探している。
突然命を狙われ、空を飛ぶ靴を履いた男ケインに助けられ、自分が宇宙貴族の生まれ変わりであることを告げられる。
地球をその一族の植民星であり、そろそろ収穫の時期に近づいてきたため、所有権争いが活性化。
彼女の所有権を失効させて自分が権利を手に入れるため、見たこともない親族に命を狙われていたのだ。
地球から宇宙に舞台を移して戦いが繰り広げられていく――。

おとぎ話にしても突拍子も無さ過ぎるように感じるが、様々な設定の緻密さと画面クオリティの高さがそれを支えている。
特にケインの身につける空中をスケートやスノボのように滑走する装置と、それによる空中戦は新鮮な刺激。
誰の撮った映画だろうと見てみると、兄弟から両者性転換で姉妹になったウォシャウスキー監督の作品。
代表作「マトリクス」シリーズのような未来的ビジュアルは確かに姉妹作品ならではの雰囲気。
予算をきっちりかけただろうリッチな雰囲気をまとっているのも納得。

物語としてはスターウォーズⅣ~に似ているように思うが、まるでエピソード「Ⅳ」「Ⅴ」「Ⅵ」を1本にまとめたような慌ただしさ
本当は分作にしたかったのでは無いかと思われる分量を1本にまとめている。
ただ話は単純なので筋を見失うこともなく、設定のよく分からないところも気にしすぎなければそれほど視聴に影響しない。
テンポ速く進む物語、1本で起承転結している点は、今作の良いところだと感じる。

ただ、なかなか売りにくい作品だろうな、と思う。
ビジュアルもそのシーン単体でハートを掴んだマトリクスのような革命的な物では無く、物語もおとぎ話、昔話のようなありふれた印象。
これをどういうコピーや予告編で宣伝しようかと考えると、やはり「マトリクスの監督!」くらいしか思いつかない。
その威光も10年以上経っているので弱含みなわけで。  

2019年9月25日水曜日

屍者の王国

★★★☆☆
~予告編がもっともワクワクする~

SF小説家として高く評価されながらも、数作を残して30代で夭折した、伊藤計劃
彼が最後に残した原稿用紙30枚分の「書き出し」とプロットを、同時に賞をとってメジャーデビューした盟友、「円城塔」が完成させた小説を原作としたアニメ映画。

屍体にプログラムを流し込んで蘇生させる技術が一般化し、重要な労働力となった1800年代の世界。
蘇生技術者である主人公は死亡した親友を蘇生させる。
その中に本来の親友の魂は存在するのか。真の復活は可能なのか。
進歩する蘇生技術の行く末を巡って国々の、科学者達の、被験者達のやり取りが繰り広げられる。

このアニメ版にはあれこれと改編があるようで、そもそも原作では主人公が蘇生させるのは親友ではなく、無関係だった人物とのこと。
「円城塔×伊藤計劃」の死を越えた、作品作りを通した精神的やり取り。そして物語としてのの再生を「主人公×親友」の関係に反映させたのだろう。
深みを感じる立て付けだが、終盤で物語自体がわかりにくさを増していくため、その意義を考えるばかりで感じる事は出来なかった。

物語はヨーロッパからインドの山奥、日本、アメリカ、そしてまたヨーロッパと、世界一周のロードムービー。
思っていたよりもスケールがでかい。
ポンポン場所が移って飽きにくいのは確かだが、目的が判然としないまま状況に振り回されるのをダイジェストで見ている印象。
オチもなんだかよく分からず、全体に頭でっかちの衒学的な趣の強い、人には勧めにくい作品。
ガンダムユニコーンのパンドラの箱の種明かしのように、納得のいかないままこじつけの言説に流されて完結、みたいな。

レベルの高い作画とうまく折り合いをつけて使用されているCGは見事。出しゃばりすぎず、陳腐すぎず、理想的。
世界一周のスケール感、聞いた事のある人物が沢山出てくるゴージャス感。
なのに不思議とワクワクしないのは、主人公に魅力を感じにくいせいだろうか。
ワクワクレベルで行くと予告編が最高潮で、これはままあることなのだが、やはりがっかりはしてししまう。

今作に加えて「虐殺器官」「ハーモニー」を合わせて伊藤計劃の作品映像化プロジェクト三部作。
虐殺器官は小説読了のみで未見だが、三作とも大ヒットというわけでは無さそう。
ただ、今作もハーモニーもきちんと映像が作られた佳作であり、製作者のアニメと原作に対する敬意、熱意を感じる出来だ。

肺癌による自らの死を直近で感じながら、記憶、命、感情、人間の営み、死……。
そういった事柄を考え抜き、深く切り込んだ作品群を著した伊藤計劃。
その絶望と希望に思いを馳せると、切なくなる。

2019年9月24日火曜日

ダーリン・イン・ザ・フランキス


★★★★
~露骨なエロで損してる~ 


原作物では無いオリジナルアニメ。全24話。
「キルラキル」などで名を馳せるアニメーション制作会社「トリガー」が中心となって制作される。

荒廃した地上に多数の移動式ドームを設けて生き延びる人類。
襲い来る謎の巨大生物「叫竜(きょうりゅう)」に立ち向かうため、男女ペアでしか動かない巨大兵器「フランクス」を駆る選ばれし子供達。

これだけだと類似多数の印象だが、全てのクオリティが高いので、作品を見れば一目で独自性と吸引力をひしひし感じる。
キャラ、ロボ、世界のデザイン。レイアウト、絵コンテ、演出の手腕。原画動画、効果の作り上げた画面。
絵の力とは、本当にすごいなと感心させられてしまう。
動きのタメ詰めや、カットの切り方、繋ぎ方、キャラクターの細かな仕草など、画面を見ているだけで充分に視聴に耐えうる。

特に自分が気に入ったのはロボットのデザインで、細身の素体の各部位を巨大な装甲で覆うフォルムがメリハリ強く気持ち良い。
永野護の「ファイブスター物語」のゴシックメイドのような様式美も感じられて非常に麗しい。
男女のうち、女性側がロボットと一体化し、それを男性が操縦するという設定なので、ロボットの顔部分に女性の顔(厳密には違うが)が映し出される。
表情を持ったロボットが活き活き動き回る姿はとても気持ち良い体験。
総じて血湧き肉躍る出来の良いアニメーション作品だが、物語としてはいろいろ目についてしまう。
「トップをねらえ2」「エヴァンゲリオン」「グレンラガン」「スタードライバー」など、心に残るたくさんの作品パーツが積み上げられたような物語.
それ自体はぱくりと言うほどのことも無く問題ないのだが、あれこれ入れようとしすぎのような印象をまず受ける。
物語の主要な要素として以下のような大筋があると思う。
※細かく見るとさらに多くありそうだが……。
①<ボーイミーツガール>1~15話
立場が異なり、それぞれ問題を抱える少年少女が出会い、恋に落ちる。
二つの世界が恋という引力ですり合わされることで起こるドラマ。
主に主人公とヒロインの関係性で展開。

②<こどもから大人へ>16~19話
守られていた存在、言われたことをこなすだけの存在から自律的、自発的に動く存在へと成長していく。
子供を産み、育てる存在へ。
主人公とヒロインを除いた他キャラクター、つまりヒーロー、ヒロインでない者のドラマが主体となる。

③<孤立と共和>20~24話
効率を突き詰め他者との関わりを排除していくのか、他者との関係の中で自分の位置、価値を確立していくのか。
個としての永遠と、受け継がれる流れとしての永遠。
①で終わりにすればという意見がネットでよく見られ、確かにその気持ちはよく分かる。
謎の多くは放置されるが、戦いはつづくけどきっと大丈夫、という前向きな印象できれいに締めることが出来ただろう。
②③は様々な情報が増え、世界の謎が解き明かされていくが、正直な感想として、あまりきれいなつじつまと感じない。
状況をもう一度散らかして、あれこれ揺さぶった後収束させるというには、②③で広げた風呂敷は広すぎて、理屈も時間も足りない印象

ただ、物語として少年期以降の様々な大人的な葛藤を描く②③は良く挑戦したなと思う。
普通終わる物語の、その後を描いたといった良いかも知れない。
分かりやすくいうと、つき合った後の恋人達の問題
自分は、①で終わりだったら良かったかな、と思う派だけど、②③を好きな人もいるだろうし、その気持ちも分かる。

最後に、全編を通して安易なエロ要素が盛り込まれすぎだと思う。
フランキスに男女で乗り込むのはもろにセックスのイメージで、女性があえぐシーンが非常に多くて見ていて恥ずかしい
テーマとして、男女の性愛が世界をつむいでいくのだというところと対応しているのだろうが、露骨すぎる。
カップルを切り替えるのも、なんだかサークル内の狭い範囲で恋人をとっかえひっかえして全員兄弟姉妹みたいな状況
これが堕落とか悪とか言わないが、自分には嫌悪を感じる設定であるし、展開だった。
ラブコメで差し込まれるサービスシーン、意味の無い露出やパンチラという人気取りの要素に感じられて、頻度が高いのでちょっと辟易した。

これではいくら出来が良くても人に勧められないし、アングラアニメの域から出ることは難しいだろう。  

2019年9月20日金曜日

転生したらスライムだった件


★★★★
~ただの転生無双では収まらない~

なろう系ライトノベルを原作とした「マンガ版」を原作としたアニメ。
2クールと比較的長期にわたって放映されたのは、原作人気の賜物であろう。
原作小説はまだ続刊中で、今回描かれたのは序盤部分と言って良い。

現世で後輩カップルが通り魔(?)に襲われたのを身を挺してかばったため刺殺されてしまった主人公。
転生するとスライムになっていた……。
ドラクエの影響で最序盤の弱小モンスターのイメージが定着しているスライムだが、本家(?)D&D(ダンジョンズ&ドラゴンズ)の設定を筆頭に、海外ではかなりの凶悪モンスター
物理攻撃が効かないため、松明や魔法の準備が無いとまるで歯が立たないのである。
しかもクリオネのように体内に敵を取り込んで消化吸収していくというシースルー残酷仕様。

今作のスライムは見た目ドラクエ、性能は海外の超強化版となっており、転生⇒いきなり最強のテンプレは踏襲している。
ただ、体がスライムなのでその扱いを覚えるために洞窟内で時間をかけて修行、といった描写がある。何もせずというわけでは無いが、自分の強さを発見していく、という感じ。
後は世に出て困った人を助けて人望を得る。局面が進んで別の困った人を助けて人望を得て……というくり返し。
これだけ書くとああ、良くある転生俺つええか……、と思ってしまうが、印象はかなり違う。以下のような相違があるためと思われる。

・あくまでスライムである

グロくない、可愛い容姿のスライムだが人間では無い。
変化の能力があるため人間形態をとることも多いが、毎回スライムに戻るシーンがあり、それが前提。
精神にも影響がある設定なのか、人間とは一線を引いた他人事感がある。(これはキャラの性格がそうなのかも知れないが)
・ハーレムにならない
これは大きい。
他の同系作品が登場する女性にともかくもててもてて、というギャルゲー展開に終止するのと異なり、今作はそこに踏み込まない。
活躍により好意を受けるが、多くは「敬意」「尊敬」「従属」のような形で、英雄が男女問わず人心を掴んでいく感じ。
男女どころか種族関わらずに敵がころころ味方になるので、その点は不自然に感じるが、女性キャラのみに恋されるよりも素直に受け容れられる。
そして、雄としてちやほやされる(のを見る)のは、結構気持ちいい。
女性にはぷよぷよして可愛いスライムとしてもてている。
・喪失する
嫌なことはまるで起こらない世界では無く、無くしたくないものを少なくとも一つは完全に喪失している。
ただ春の日の陽気がつづく世界では無く、きちんと悲しさもある事が示されており、背筋が伸びる。
基本的には連戦連勝のおとぎ話でも、一点きちんと締めるだけで、こんなに物語がしっかりするのだなあ。

自分が転生無双ものに嫌悪を感じていた点がどこだったのか、それを示唆してくれるありがたい作品の一つとなった。

アニメとして特筆すべき点として、画面の質の高いところでの安定と、演出の良さがある。
少なくとも以下の点での演出は細かいが目が覚めるような部分だった。

・男が椅子に座る際、ズボンの両端をきゅっと手で持ち上げてから座る
座る際のズボンの窮屈さを緩和するための仕草がきちんと描かれていた。
このような仕草で座るアニメを、自分は他に知らない。自然で、そこに人がいることを強く感じさせてくれる詳細描写だった。
・お風呂に入るシーンで、波が壁際でおもちゃを揺らすカットがある
キャラがお風呂に入って来るカット⇒壁際で波とおもちゃが揺れるカット⇒お風呂に使ったカット、と流れる。
これ、真ん中が無くても意味は完全に通るが、挟まっていることで一寸の間が生まれ、お風呂ののんびりさと世界の実在感を増している。
無い場合を想像してみると分かる。
・後半のOP前奏時の音合わせの画像がはまりすぎている
ピアノの旋律に合わせて女性がふり向き、光になって消えるという描写。
差し込まれる主人公の表情合わせて、大切な物が霧散した喪失感、悲しいだけで無い美しい切なさをわずか数秒のうちに描いている。
その後ボーカルが入ってくると良くあるOPになるが、最初の部分は非常にハイセンス。
しかも、それまでのアニメーションバンクから引っ張ってきた素材を編集してこの形にしている模様で、編集の腕前を感じる。

きっちりした才能のある演出が関わっていることを端々に感じた。