2015年11月24日火曜日

世界征服〜謀略のズヴィズダー〜


☆☆☆☆
~不条理ごっこ系~ 

放送分は12話からなるアニメーション。オリジナル作品。 原作ものが多い昨今のアニメーションの中でオリジナルだと言うだけでその気概を評価できる。 キャラ、背景、エフェクト共に安定しており、映像レベルは非常に高い
物語背景は作品を見るだけではよく分からないが、どうやら日本全体が自治体毎に相争う戦国時代の様相を呈している世界。
かといって日常が戦時中の雰囲気に染まることはなく、普通の生活の中で普通に勢力争いしている様子。
その中でレジスタンスのように「世界征服」を目指す「秘密結社ズヴィズダー」。
戦国の覇権に最も近い東京都の知事を親にもつ地紋明日汰(じもんあすた)が家出の末結社の一員となって、結果父と対決する様子が描かれる。
シリアスなはずの物語を脇に置いて、終止おふざけが酷く、もどかしいまま回が進んでそのまま終了。
笑うべきだろう箇所でも間や台詞が悪いのか、後になってそうだったかと気付く始末。
ぐだぐだな展開をそれっぽい台詞や画面の迫力で引き締め、視聴者を引っ張ろうとしているのだろうが、あまりに物語の下積みがないため盛り上がることも出来ずに空回り。
なんというか、例えが悪いが延々イケないオナニーを無理強いされるような作品。
ヒロインであるズヴィズダー首領が補助輪付き自転車を駆る幼い少女(精神は数百歳?)なのも、媚びた感じでどうにも入り込めない。オタクが好きな幼女の声ってこんなだよね、というイデアを固めたような久野美咲氏の吹き替えは見事に職責を果たしているが、見事すぎてこれまたきつい。
最近無茶な設定を立ち上げ、それを作品世界のルールとして説明せずに運用するタイプの作品が多いなと思う。
その中で登場人物達は、ルールに疑問を持つことが許されず、根本的な問題を無視して一生懸命に動き回る。
それは「ごっこ」だ。その作品の中で登場人物が生きていない。その役割を演じているだけのように感じる。
こういった作品を「不条理ごっこ系」と呼称したい。
そしてこれは紛れもなく、不条理ごっこ系作品だ。

映像レベルの高さで見る事はできるが、その労力に見合った脚本、演出にはほど遠い。
残念ながら、見ないことを積極的に推奨する作品。

龍ヶ嬢七々々の埋蔵金


☆☆☆☆
~アニメーターの努力が切なく迫る~

ライトノベルを原作とした11話からなるアニメーション
洋上に浮かぶ学生のための学園都市ならぬ学園島。
それを作った龍ヶ嬢七々々が島の各地各施設に隠した超常的な能力を持つお宝を巡る物語。
課外活動としての宝探し、名探偵の女の子、助手の男の娘、古い殺人事件の謎、立ち去らぬ幽霊――。
酒乱の美人大家、年上の幼なじみ、戦闘狂の対立者、主人公の生い立、お宝の能力を使った頂上的戦闘――。
およそこれでもかと受けそうな要素を詰め込んだ結果、11話の中ではまったく収まりがついていない。
謎は謎のまま、いわゆる「俺たちの戦いはこれからだ!」で終わる。
ラノベ原作とは知らずに見ていたので、あまりにも投げっぱなしな最後にこれはこれで潔いと感心してしまった。
状況設定やキャラクターに実は意味が無く、「現代の宝探し冒険譚」を行うためだけの設定なのかと深読み。それにしては悠長で必要なさそうなエピソードに終始するなあ、と。
しかしそういうことではなく、二期期待の原作そのままタイプだったことが(自分としては)判明。してみると一体このアニメーションは何だったんだろうという感慨が湧き起こる。
映像のクオリティは高いと思う。キャラ、背景、エフェクト共に安定しており、総合的に見て美しい。
特に格闘シーンはキャラクターがアクロバットな動きを小気味よく展開。非常に高い技術力を感じる職人芸。
しかしそれらすべてを空虚とし、切なくさえ感じさせてくれる、物語と演出。
原作特有のものなのだろうが、まず主人公に感情移入しがたい
最初は主人公の素性が隠されており、それをトリックとした展開が序盤のクライマックスなのだが、何とも陳腐な印象。主人公のちぐはぐさ、コロコロ意見の変わる節操のなさだけが印象に残り、嫌悪感を植え込まれる。
この悪い印象は最後まで覆されることなく、それどころか他の登場人物も同様、控えめに言っても腹が立つ人物ばかり。キャラクター付けのために無理矢理演技させられている感じなのだもの……。
会話もこう言えばそう答えるのだろう、という推測をなぞるだけの印象。説明的なセリフが積み重なり、早く先に進んで欲しくてイライラする。演出もあれこれ頑張っている印象だが、小手先の範囲。脚本を越えることは出来ず、なのだろう。
この作品は原作小説の宣伝のために存在しているのだと結論するしかない。ただ、宣伝としてもあまり有用ではない。これを見て原作を読みたくなるかと言えば、それは希な反応だと思うから。

ターミネーター:新起動 ジェニシス

ターミネーター:新起動/ジェニシス ブルーレイ+DVDセット(2枚組) [Blu-ray]

★★★☆☆
~極悪な予告編~

2015/07/11(字)    市川東宝で鑑賞。
シュワルツェネッガー主演のシリーズ第5作目。5作目だが、軽んじられている3・4を飛び越して1・2の直系と謳われている。
確かに3・4はいまいちピンと来ない出来だったと思う。

3は最新最強の敵ターミネーターの凄みが2よりも低下した印象。女性型、しかも妙齢の女性というのが威圧感を下げていたと思う。主人公も頼り無い感じで、2の時に得た覚悟はどこに行ったんだと憤懣やるかたない。
4は審判の日以降の未来戦闘を舞台にしているため、これまでのシリーズとあまりに毛色が異なっており、単体としては楽しめたがシリーズとして見ると中途半端な印象。

そして4。正直あまり興味を引かれていなかったが1・2の監督でありシリーズの産みの親であるジェームズ・キャメロン監督が絶賛した記事を読んで視聴意欲をかき立てられた。この記事までは良心的で、映画のネタばらしは「後半の展開が凄い」にとどめられていた。(これでも結構なネタばらしだけど)
実際この時期に映画館で流されていた予告編は大がかりなアクションシーンをメインにし、物語自体にはあまり触れていなかった。しかしそのアクションシーン自体大規模で大予算がかかっていそうだと感じるもののイメージの新規性には乏しかったため、良くあるアクション映画の一本というイメージだった。
おそらく物語の核心を秘匿し鑑賞体験を守るためにこのようになっていたのだろうが、前評判の弱さに危機感を感じたのだろう。(勝手なイメージ的には数字にビビった上長が良識ある部下のとめるのを聞かず、全力ネタばらしバージョン作成を指示したに違いない。)
上映直前の予告編は、もう恐ろしいほどのネタバレ。キャメロン監督の語った後半の展開もほぼ全て示唆される内容となっており、予告編で想像した物語が丁寧に描かれるのを見るだけの本編鑑賞なのである。

それでも、実際に見るまではそれ以上の驚きの展開があると思うわけで、まさかそれが全てだとは思いもよらず、最後まで信じて裏切られた印象。
もう、見ていて、あれ? あれ? の連続。
物語のキーポイント以外にもピンチの切り抜け方や見所となるアクション全てをご丁寧にも予告編につぎ込んでいる。バスに乗った瞬間、そのバスがどうなるか分かってしまう。
本当に、酷い予告編だと思う。
見てもらえなくちゃ仕方が無いというのも分かるが、優秀な予告編の提議は以下のようなものだと思う。

・本編より面白そう
ともかく興味を引く内容にまとまっている。

・使うカットは遠慮しない
そのために使用カットはクライマックスだろうがなんだろうが遠慮しない。
見所全てを使ってもいい。

・想起される物語は本編とは異なる
ただし、予告編は「ミスリード」でなくてはならない。
本編の展開を正確に見せるのではなく、モンタージュをずらして異なる展開を想像させるべき。
本編の核心に近いネタバレは御法度。

今作の予告編はこのあたりのことがまるで分かっていない。
見所を順に並べ、あらすじを述べる内容となっており、才能を感じさせない悪辣で凡庸な編集。
まったく、このような配給会社にあたった作品は貧乏くじだ。どれだけ本編が面白かったとしても、前宣伝でミステリーの犯人を示されてはやりようが無い。「映画を映画館で見る」という文化に敬意を払わない人間は映画に関係する仕事には就いて欲しくないものだ。
予告編の方が面白い予告編詐欺には何度も合ってきたが、予告編を編集した職人芸に感心出来るのでまだ許容できた。

作品自体の内容は、1・2を視聴した上に余分な前情報の無い事が前提となっているのでファン限定色の強いものだが、その分1・2が好きな人にはこれこれ! という喜びがある。特にシュワルツェネッガーが妙な若返り処理ではなく、今の風体で主演していることが最高に楽しい。「生体組織は年をとる」というアイデア一つが生み出すこの気持ちよい開放感。あの年老いたターミネーターの笑顔はCGではまだまだ到達し得ない領域で、辿り着いても費用対効果から実写でとった方が良いと判断される物だろう。

新三部作の1作目という事でまだ謎が残ったまま幕を閉じる。
願わくは次作の予告編は良識あるものにして欲しい。本当に、本編以外の雑音は万死に値する。

マッドマックス 怒りのデス・ロード

マッドマックス 怒りのデス・ロード [Blu-ray] 

★★★★★
~暴虐の果ての神聖~

 2015/06/27 市川東宝で鑑賞。  

 傑作であり、映画史に残る作品である。 

 マッドマックスシリーズの四作目だが、これまでの話を知る必要はない。何しろ3作目(1985年)から30年も経て生まれた最新作。今作だけで起承転結がしっかりついている。

 砂とほこりにまみれた核戦争後の世界。血とガソリンに彩られた暴力が全てを支配する。そんな設定を序盤数分できっちり説明してタイトル表示。もうここまでで世界に引き込まれてしまっている。 

 特に冒頭の一人語りのシーンは秀逸。車の脇に立つ男。手前にトカゲが……と見てみれば、双頭の奇形トカゲ。そいつが男の足下に走り寄ると男が踏みつける。それをつまみ上げると躊躇なくパクリと食べる男。細かいことはさておき、そういう世界なのだと納得させられてしまう。こういった絵の威力が全編にみなぎっている。 

 物語は常に移動を続けるロードムービーの色合いが濃い。逃げる者と追う者の疾走したままのアクションがこれでもかと続く。ほぼ全編がそういったアクションシーンなのだが、新しい敵、新しいシチュエーションが惜しみなく投入され、相対する者の関係も変化していくので最後まで飽きとは無縁。アクションとアクションをつなぐ会話シーンが良いアクセントになって緩急のある良い塩梅に落ち着いている。

 登場人物にまともな人間はいない。程度の差こそあれ、敵味方全てがどこかいびつでゆがんでいる。まさに狂気に塗り込められた世界なのだが、見ているうちに彼らの狂気は秩序がなくなり狂った世界で生きていくのに必要な心の働きなのだと感じられてくる。狂人に見えてもそれぞれに切実な想いがあり、狂気にも共感できるようになる。

 暴力が当たり前の手段として存在する荒廃した世界。それを受け容れるために組み立てられた常識、生活の仕組み。その中で必然的に立ち上がったのだろう、宗教のような枠組み。
未開部族が世界と折り合いをつけるために様々な神を打ち立て信仰するように、狂暴な世界においても同じ事が行われている。
 映像はとてつもない説得力で迫り、彼らの抱く信仰がひしひしと感じられる。

 暴虐の果ての神聖さ。

 それを感じる事ができる希有な映画。

 

2015年11月23日月曜日

ハンニバル

ハンニバル Blu-rayプレミアム・エディション(2枚組)

★★☆☆☆
~画竜点睛を欠きまくり~

知能派シリアルキラー「レクター博士」と彼から情報を引き出そうとする捜査官のやりとりが話題となった「羊たちの沈黙」の続編。
厳重に拘束されていた博士が脱獄したのが前作のラストシーン。野に下った博士を見つけ出そうとする大富豪の思惑が博士を再び呼び起こす。
知性の塊といった意味深げな会話と唐突な猟奇的行動。それらを同じテンションで行う博士のキャラクターは、常に何が起こるか分からない危険性を見る者に感じさせる。このあたりの感触は北野武監督作品の特徴である「テンションを上げない残酷行為」とよく似ている。前振り無しでいきなり「来る」のである。
このように残酷なシーンもレクター博士の人となりを表すのに必然なパーツであり、また「残虐性が持つ神聖さ」はこの作品のテーマだと思う。それなのに、久しぶりにテレビで見た本作はなんとそういったシーンの多くをばっさり削りとられていた。
R-15指定の作品なので仕方がないのではあるが、おそらく編集者も大変な思いをしたのだろうが、それはまさしく本作の決定的な魅力を削り取る作業であった。いい感じに忘れた状態で見たので素直な感想だと思うのだが、まるでボコボコに穴の空いた絵画。全体のつながりからその穴にどんな図柄が描かれているのか類推は出来るのだが、顔や手といった目を惹く箇所であるため決定的な趣旨が欠落してしまうのだ。このような状態の作品を本来の題名で放送して良いのだろうか?

そう言えばこの映画を初めて見たのは映画館で、友達とだった。その後御飯を食べに行く予定だったが、さすがに食欲がなくなりお茶だけにした記憶がある。ノーカット版を見た方には納得してもらえるだろう。

2015年11月22日日曜日

LUCY

LUCY/ルーシー [Blu-ray]

★★★★
~短いのを感じない密度~

「レオン」「ニキータ」で名を馳せたリュック・ベッソン監督のバイオレンスSF。
脳はその能力の10%しか使われていないという「よくある」設定のもと、超人的能力を身につけたヒロインが為すこととは。

ルーシーとはエチオピアで発見されたアウストラロピテクスの骨格化石。
この映画では現在の人類への進化の突端となった存在として描かれている。つまり、主人公も次の進化への突端。
このように、超能力を個人的な性質と限定せず、やがて訪れる人類の姿として提示してある点が面白い。
脳力解放の設定は様々な作品に使用されているが、20%でこの能力が発現、30%ではこの能力……と、見ていて唖然とする設定が当たり前に提示されるのがすがすがしい。その力もむちゃくちゃ。
その説明をしているのがモーガン・フリーマン。異様な説得力にひとまず煙に巻かれてしまいたくなる。

そんなルーシーを付け狙うのが韓国系犯罪組織のボス。演じるチェ・ミンシクは「オールドボーイ」の主演でとんでもないインパクトを残したが、今回も負けず劣らずキレッキレ。超人に怨恨のみで挑む破滅的な姿はそれはそれで魅力的。
物語のスケールは最後まで加速度的に大きくなり、下手をすると置いてけぼりになって映画終了となるが、地に足のついた(?)犯罪組織のがんばりのおかげでかろうじて現実に片足をのせている感じ。

リュック・ベッソンはレオンのようなバイオレンス物と「フィフスエレメント」のようなSF物を撮っているが、今作はこの二つがお互いに悪影響を与えない形でうまく同居しており、氏の総集編のような印象を受る。編集の引き出しが多いというか、モンタージュ技法などイメージカットの多様が印象的。短い時間にしっかり満足のいく密度で映像を詰め込んでいる。

監督の遊び心と内容のいい加減具合がちょうどマッチした快作。