★★★★☆
~未来の端を切り開いていく~
2014年アメリカ。日本のライトノベル『All You Need Is Kill』を原作とした「エイリアン侵略」×「タイムリピート」SFアクション映画。
何をもってライトノベルとするのかは様々な議論があろうが、ともかくハリウッド全力で実写化された日本のSF小説である。その本気具合は主演がトム・クルーズである事からも明白。映像や演出のクオリティも高く、どこに出しても恥ずかしくない大作映画となっている。
ギタイと呼ばれる異形の侵略勢力は瞬く間にヨーロッパの人類を駆逐。人類も決死の反抗をくり返すがいつも裏をかかれて敗北を重ねるばかり。
残存兵力をつぎ込んだ最大で最後の反撃作戦を間近に控え、広報官を務めるウィリアム(トム・クルーズ)は将軍から最前線での活動を命じられる。命を賭けて戦ったことも無い口だけ勇敢なウィリアムにとってこれは死刑宣告であり、これまた口八丁で切り抜けようとするが将軍の反感を買い、脱走兵として逮捕。将校身分を剥奪され一介の歩兵として配属される。
作戦が開始され、何の戦闘技能も持たないウィリアムは役に立たぬままギタイに殺されるが、偶然か最後の意地か、地雷を炸裂させて相打ちとなる。
目が覚めると、歩兵に配属された場面に時がさかのぼっていた――。
映像的な魅力には事欠かない。蠢く鎖が肉食獣のような形態をとって襲いかかるギタイ。歩兵が着込む(乗り込む?)、武器満載の小型のパワードスーツ。それらの大群同士が「ノルマンディー上陸作戦」のごとくぶつかり合う大乱戦。
ちゃちに見える瞬間はなく、密度の高い映像を小気味よいカット割りで見せる。うまいと思うのがパワードスーツの活躍シーン。こういった「人間が見える機械装備」の戦闘シーンは、不自然に動かすと学芸会のように見えてしまい、その瞬間ジョークに感じられてしまう。今作は「動きがあまりよく分からないが格好良いカット」の累積として組み立てられており、ムードを壊さずに戦闘の過酷さと格好良さを見せてくれる。
しかし本作で最も称賛すべきは、脚本の出来だろう。
原作小説の魅力的な部分をより分け、大作映画として有用な部分を選び出してきっちり配置。その上でスケール感を大幅に増強。起承転結の納得感を原作以上に高めている。(原作小説は未読だが、かなり忠実とされる漫画版を既読)
原作小説とはかなり異なっているのに、きちんと『All You Need Is Kill』なのだ。理想の「ハリウッド映画化」とはこういうことなのだろう。
複雑になりがちな「ループ物」なのに非常に分かりやすく構成されていることも特筆すべき。
死ぬ度に同じ時点にもどり、様々な手法を模索して勝ち筋を見出そうとする物語なので、どうしてもくり返す部分が必要。これを普通にやるとまだるっこしくて見ていられず、端折りすぎると「リピート」という中心設定が薄れていく。描く部分と省く部分の取捨選択が上手いのはもちろんのこと、「今はどういった方針で突破口を探しているのか」が分かりやすく示されているのが大きい。またそのチャレンジ要素の進展が物語の進展と一体化しており、次々に問題にぶち当たっては、様々な方法でそれをくぐり抜けていくのが気持ち良い。
自分に言わせると、今作の気持ちよさはアクションゲームのそれに非常に近い。分かりやすい例で言うと「マリオブラザース」シリーズの攻略だ。初めははまっていた穴ぼこを上手く飛び越え、やられていた敵キャラをタイミングを計ることで回避、撃破。死ねばやり直し。最適な操作を学習していくことで攻略を進行していく。不可能だと感じられたステージがいつしか余裕となり、思いもしなかった攻略方を手に入れた瞬間、ゲームバランスが一気に変化する――。
だからこそ、作品に描かれなかった部分の残酷さが怖くなる。
アクションゲームは、リスタートポイントから攻略が進めば進むほど、苦労の度合いは増していく。経験により解法が分かっても、正解を同じようにくり返すのは非常に大変だ。ちょっとしたミスが攻略の最先端にたどり着く事を邪魔する。攻略方を記憶し続けるのも地味だが大変だろう。最先端に辿り着くだけでも大変なのに、さらにそこからが勝負なのだ。
ゲームなら仲間や記事、ポーズボタンが助けになってくれるだろうが、ウィリアムは一人きりである。攻略を進めることで事情を共有した仲間も、死亡すればその全てを忘れ、自分だけがそれを記憶して同じ説明を何度も同じ相手にくり返さなければならない。
まさに地獄だ。
無間地獄とは、このことだ。
映画の各所で暗示されているように、彼は描かれている何倍もの死をくり返している。
それでもたった一人、人類の明日のために戦い続ける。繰り返しを一人で過ごす時間によって、ひょっとすると精神はすでに老境なのかもしれないのに。
そんな彼がラストカットで見せる笑顔。
僕には「もうこれ以上リセットされず、一緒に過ごしていけるんだ」という安堵に感じられた。
もう何度も説明しなくて良いんだ――。
映像もスケールもしっかりしており、様々な楽しみ方に対応。最後には満足感で気持ち良く鑑賞を終えることが出来る。
万人に勧めることが出来る希な「リピートもの」SF大作である。
0 件のコメント:
コメントを投稿