★★★☆☆
~設定とテーマと物語が一直線に並ぶ傑作~
2019年のスペイン映画。SF&サスペンス&スプラッタ。
スペインと言えば自分の好きなアレハンドロ・アメナーバル監督を連想するが、今作の監督 ガルデル・ガステル=ウルティア氏の今後も期待大。自分にとってスペイン映画の打率は非常に高い。
10メートル四方ほどの閉鎖された出入り口のない部屋。それが縦に何十何百重なった謎の施設。
各部屋には二人が収容され、すべての部屋の中央は完全な吹き抜けとなっていて上下が見通せる。
毎日その吹き抜けの空間を降下してくるテーブル。その上には手の込んだ料理が満載だが、下の階層になるほど食い散らかされ、やがて何も残らない。
一ヶ月ごとに階層はシャッフルされ、下層では生き残るための残虐な行為が当たり前に行われていた。
もうこの設定のすさまじいことすさまじいこと。
文字通り階層社会の寓話なのだろうが、以下のような要素が入り組んで現実に対しての食い込みようがすごい。
・完全に分断され、階層化された社会
・下層になるほど生きるためのリソースが欠損していく
・本来すべての人が生きられるだけのリソースが提供されているのに、中層以降全く足りない
・階層によってグラデーションのように変わっていく常識
・生き残るために行われるどこまでもどぎつい行い
・階層を移動する人々は現状と安全を捨てる必要がある
・変動する「安定しない階層」が人々から消し去っていく思いやり
・そこには何でも一つだけ持って入っても良い
・理解しがたい全体の構成とその意図
これらはその一つ二つで作品テーマになり得る重い要素なのだろうが、今作ではすべてが渾然一体となっているのだ。
似たようなテーマと描き方をした映画として『スノーピアサー』が連想されるが、寓意の直截(ちょくさい)さと筋書きのおもしろさにおいて今作が圧倒している。
特に階層が固定的でなく変動する点が興味深い。階層が固定的であるのなら、上位層は上位の生活に慣れたあげく、下の層の生活をおもんばかり何らかの改善を試みると思えるが、今たまたま上位層という状況なので、ただただ今の境遇を刹那的に楽しむしかない。これは自然な心の動きだろう。
この作品の中でも施設外や、食べ物をつくっている者達は階層とは関係ない枠外に固定化されている。現実で対応を探してみるとすれば、枠外は桁外れの上位資本家であり、階層の人々はそれ以外のすべての人間、となるだろうか。作品内で階層の人々はその枠組みの破壊を目指さない。その発想さえない。ただ、物語終盤以降において、階層外の上位存在に、みんな対等な人間であることを思い出させようとするのである。
なんと夢想的なように見せかけた現実なのだろう――。
寓話の色が濃い作品は説教くさくて退屈になりがちだが、今作はエンタメとしてみても最後まで観客を引きつける魅力を持っている。やもすれば出落ちになってそこで終わりそうな設定を、上手く操縦して異なる面、新たな情報を随時提供して物語を推進させていく。この辺りのうまさは理不尽シチュエーションでのサスペンスの金字塔『キューブ』を彷彿とさせる。つまり、設定だけでなくその生かし方が見事だということ。最後までしっかりおもしろい。
閉鎖された施設という限られたシチュエーションの中で、退屈にならない物語を構築するのはどんなにか難しいだろうに。
ただ、ここまで褒めておいて★3なのは、あまりにスプラッタ表現がきつく、とてもじゃないが人に勧められない。特に食に関する表現がモザイクになるほど致命的で、ここまでやる必要はあったのか――おそらく、あったのだ。
下層の凄惨さが増すほど、階層上下のコントラストが増し、映画全体がくっきりと浮かび上がる。だからこれは制作者が望んだ減点ポイント、汎用性低下であり、★3はある意味今作にとっての最高点数なのだと確信する。
★2を減じるほど強烈なスプラッタなので、覚悟のない人は本当に見ない方が良い。
2022年10月29日土曜日
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