★★★★☆
~届かぬ祈り~
1999年。貫井徳郎 の推理小説。
沢山の人が沢山の文章を書いている中で、それぞれの文章には独特の感触、印象がある。
今作はこんなだ。
ごつごつと初めの舌触りは堅いが、少しかみしめると途端にさっくりとほどけてたやすく味わうことが出来る。実直な味付けで少々古くさいと感じるかも知れないが、それは基本が出来ているからだろう。ともかく真面目できちんとしている。
連続幼女誘拐事件に関わる多くの人間を描いた作品だが、もうこれ以上何を書いてもネタバレになりそう。
視点Aと視点Bを交互に描くことで、飽きさせずに、また熱くさせすぎずに読者をずいずいと深奥に誘い込んでいく。まさに今作のトリックに深く閉じ込められていくのは登場人物では無く読者自身。
トリックについては正直に様々な材料、違和感は示されているので、種明かしにも納得せざるを得ないだろう。
自分も違和感から、まさか、という推測を経て、ああ、こうに違いないという心の変遷をたどったが、最後はもうその予測が間違ってくれと祈りたくなる内容だった。
題名である「慟哭」も画竜点睛のごとくにピンポイントで示され、別れていたものが見事に一致する。
難点としては後味が悪く、救いが無いこと。弱っているときには読みたくない。
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