2022年9月15日木曜日

<小説>氷菓

 

☆☆☆☆
~伸びに伸びたそうめん~

 
 2001年、米澤穂信 によるライトノベル。ジャンルは「日常の謎」とのことで、なるほど事件ほどでは無い事件を扱うものらしい。
 
 今作は事なかれ主義の主人公が魅力的な女性の行動力に巻き込まれて幾多の事件と関わっていくという筋書き。脇を押さえるのは面倒見の良い親友という所を含めて黄金律的な定番の立て付けだが、別段奇をてらう必要もないだろう。これはこれで良いと思う。
 ただ、登場人物達は高校生なのだが、言動が凄まじくおっさん、おばさんくさい。中身が中年のMMORPG(ネットゲーム)といわれても納得行きそう。変に遠回しにしてこねくり回したもののしゃべり方をし、その語彙たるや全員インテリゲンチャ(知識階級)で鼻につくことこの上ない。そして何か浅い。結局ほとんどの会話に意味は無く、実質一言二言のことをものすごく水増ししている。全員が突飛なキャラクターを己の中で想定して、それを演じるのにセリフのみでなしている。
 
 つまり「中二病」患者による音読劇
 
 自分はかつて確実に中二病患者であったし、全快したのか寛解なのか、うまくその病を飼い慣らせているのか分からない。
 ただ、そういった文章や展開を見ると、人ごとに思えず恥ずかしくなって、身もだえし、うめきそうになる。今作ではこの発作により読書が数度止まることになった。
 
 やはり登場人物達の各種言動がもっとも「くる」のだが、読み進めていくと作品の立て付け自体もだんだんきつくなってくる。
 今作は主人公が普段は昼行灯だが、わずかな情報から物事(事件)の謎を解く才能を持っているという設定なのだが、その事件、謎がもうショボくてショボくて……。普通の生活に潜むちょっとした違和感、不思議を題材にするという意図した選定である事は分かるのだが、大体程度としては以下のような事件だ。
 ※本編の謎を載せるのは申し訳ないので、こんなものかという内容を勝手に考えた。
 
 ・誰もいない放課後の学校で、ひとつの教室の電気だけが一瞬明滅した
 ・いつもは通りかかるだけで挨拶してくれる用務員さんが、今日に限って挨拶をしてくれなかった
 
 その謎解きもショボい。状況証拠で推測して終わり。他の推理もどれだけでも成り立ちそうだが、そもそも駄弁るための題材なだけなので、裏取りに確かめに行くことも無いのだ。
 
 ・戸締まりの巡回をしていた教師がこの教室だけ入口に荷物が会ったにつまずき、電気のスイッチに手をついた
 ・用務員さんがコンタクトを落としていた
 
 これを披瀝して鼻高々。回りも拍手喝采という始末である。共感性羞恥! いくらジャンル「日常の謎」といっても、これでは知的好奇心が満たされるどころか欲求不満である。この規模ならTwitterの文字数で起承転結すればいい。
 いやしかし、本作には一応小ネタ以外の主たる謎が存在する。それががっしりびっしり収まるなら、これらもミスリード(?)であり、コントラストを高めるための演出なのかも知れない!
 
 そう読み進めてみたが、いやあ……。期待の大ネタがなんとダジャレでおしまいだとは……。しかも、氷菓は果汁を凍らせたもので……。
 謎もきちんと解けた感が無いし、そうはならんやろ感がすごい。叔父が困ったのは「おじさんと結婚する!」とか言いだしたからじゃ無いのかよ! この方が納得感あるやろ!
 おもしろくない落語でも起承転結はある。今作も起承転結は整っている。キャラクターに感情移入出来るなら、楽しく感じるのだろうとは思える。中学時代なら楽しめたのだろうか。しかし自分は48才のおっさんであり、中高生向けの小説を正面から受けとめるのは辛かったみたい。
 
 小説にはその対象年齢に応じた文体、そして情報量と密度があると思う。
 今作は自分にはゆですぎたそうめんだった。数十分ゆでたそうめんを、さらに水道水につけて放置。それをうす~い出汁につけて食べたような印象。
 体に悪いことは無いだろうが、心が満たされない食事だった。
 
 今作と続くシリーズはあわせてアニメ化されており、そちらの人気で止まっていたシリーズが再開したのだとか。
 この内容をアニメにして成り立つのだろうか。興味深い。



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