2009年6月10日水曜日

レイン・フォール~雨の牙~

レイン・フォール/雨の牙 [Blu-ray]

★★☆☆☆
~誰が見るのか?~

時々、なぜこの映画が作られたんだろう、という作品がある。
原作が有名なわけでもなく、何か時流を狙ったでもなく、そっと公開されて話題にもならずに過去作へと追いやられていく。

インディーズのような立ち位置の作品ならそれも分かるが、大手配給会社からもそういった作品がポッと配給されることがある。
今作がまさにそれで、配給会社はSPE(ソニーピクチャー)である。

自分は主演の椎名桔平が見たいためだけに映画館に足を運んだが、深夜の回であるにしても、案の定観客は自分ともう一人のみ。
自分も他の映画の開始前予告で知った位なので、存在自体が知られていない作品だろう。

内容も、実に安っぽかった。
見るからに安上がりな撮り方ばかりで、予算の制限が厳しいのだろうとひしひし感じる。ラストのシークエンスでさえ主役二人が別撮りなのが丸分かりなのがつらい。
テレビの二時間ドラマの雰囲気、というのがわかりやすいが、例えば「踊る大捜査線」の映画が予算の増えたテレビドラマだとすれば、今作の予算規模は下手をすれば通常の二時間ドラマよりも少ないのではないかという印象である。(まあさすがにそんなことはないのだろうが……。)

かといって見る価値のない、存在を忌避する作品かといえば、そんなことはない。
椎名桔平に対するひいきを差し引いても、自分は学ぶところ大きかった。
少ない予算で、映画としての雰囲気を出す創意工夫を感じたからだ。

ともかく画面の部分ぼかしが多用されている。

画面手前の事物を大きくピンぼけにして、ピントの合わせた奥の被写体をとる、というのはよく行われる画面づくりだ。立体感が強調され、なおかつ主体を引き立てる事が出来る。ぼけた部分がソフトフォーカスの要素ともなり、全体にふんわりした情感も生まれる。
この映画では、普通に取った画面の一部を後からピンぼけにするような手法で、同様の効果を遠近に関係なく発生させていた。
※上記はおそらく、でひょっとすると撮影時のレンズフィルターにそういった加工を施していたのかもしれない。

きちんと絵づくりしようと持ちこたえている人が、画面の向こうにいる。
どんな映画でも多くの人が関わり、情熱を持って関わる人は当然いるはずだ。
この映画は、シンプルな凡作であるが故に、その当たり前のことを如実に感じさせてくれる作品だった。

画面ぼかしによる画面作りは今後の参考になるし、椎名桔平はやはりいかす。
僕には後悔のない見て良かった映画で、自分のような人間が見る映画なのかと思い至るが、それでは売れないのも自明。

2009年6月4日木曜日

レッドクリフ パート2~未来への最終決戦~

★★☆☆☆
~ジョン・ウーのお笑い三国志♪~

まず言い訳させてもらえれば、この映画は本来見る予定の物ではなかった。
父がテレビでパート1を見て、続きを見たいと誘ってくれたのである。
見事に術中にはまっている。

大層な副題も、各種CMも、もうそれだけで腹一杯という後編。
希望があるとすれば、前編でため込んだ分後編ではスペクタクルの連続だろうという期待のみだが、まるで裏切られた。

素人目にも「これいらないんじゃないの?」というシーンが前編と同様に出てくる出てくる。
なにより初っぱなから目と耳を疑う失笑シーンである。
何というか、音と映像を完全に無視して、この映画のルールばかり押しつけてくる。
これはこれで昨今まれにみる貴重な種類の驚きなので一応伏せておくが、本当に気持ちの悪い導入だ。狂っておる。

この冒頭ですっころぶ展開も、その後の展開への布石なのかもしれない。
「この映画は、そういう映画なんですよ」
「いちいちつっこむのは野暮な、お笑い映画なんですよ」
そういう宣言ではなかったか?

そう飲み込んでしまえば、この作品はとたんにクオリティの高いバラエティに変質する。
最盛期のダウンタウン、そのシュールなコントに匹敵する破壊力をもった「ジョン・ウーのお笑い三国志」なのである。
何しろ本気なオーラを放射しつつ、世界全体がおかしな事を大まじめで行っているのである。多少引き込まれそうな展開があったとて、そのようなシリアスは数分も続かず台無しにされる。
一瞬後になにが起こるか分からない緊張感は、すごい。

このお笑い三国志の主要人物をその線で解釈すれば以下となろうか。

  • 乗りつっこみの名手 曹操
    相手の下手なボケにつきあってつきあって、最後に全力で憤怒。そのつっこみは中国全土を戦渦に巻き込むほど。
    負け惜しみや逃げ口上から下ネタまで、細かい芸までこなせるオールラウンドプレイヤー。
  • 最強の天然ボケ 周瑜
    決断力のないボンボン天然キャラを周囲の全員でいじりまくるという構図が美しい。
    どんな状況も微笑と演舞でクリアするというお約束を生かし、どんなにいじられても品位を守り抜く。
    大量の団子を頬張って気勢を上げる姿は今作中屈指の名シーン。
  • 口はいっちょ前のトッチャンボウヤ 関羽
    偉丈夫の英雄をまさかの解釈で小柄に。
    どんなに良い台詞を発しても、強がりに聞こえる不思議!

このようなお笑い英雄を軸に、名も知れぬ端役がとばすギャグの連発。
劉備、孔明、張飛などは意外なほど地味に目立たないが、舞台の下支えとして映画の崩壊を支える。

見終わって思うのは、これは三国志じゃなくても良かった、もしくはそうではない方が認められる作品だったのではないかという事。
この題材はジョン・ウー監督の悲願だったという事なので、当人は満足なのだろうか。おそらく彼が惚れ込んでいたのは、三国志ではなく、赤壁の戦いだったのではないか。そう思えるほど、「三国志」に無頓着な赤壁だった。

それにしても前編後編に分けた意味不明よ。
海外では分けることなく公開したとのこと。おそらく不要なシーンを削りに削って、短くまとめたのだろう。
監督としては不本意だったのかもしれないが、客観的に見てそれが正解だったと思う。監督の固定ファン以外、かったるいスローモーションと古くさい演出を見たい奇特な人はそうはいない。
前後編を適切に合わせることが出来ていたなら、見所満載の大作映画として、お笑い三国志などという非難を跳ね返すだけの密度を備えることが出来ただろうに。

一つの映画となるはずの物を、水増しして二つに分けたその詐欺的な行為。
評価も半分に扱うのが適切な対応というものだ。

レッドクリフ パート1

★★☆☆☆
~狼の皮をかぶった羊~

男の生き様を真ん中に据えた、暑苦しい映画に定評のあるジョン・ウーが満を持して放つ三国志!

こう聞くだけでわくわくするファンは多いだろうし、実際冒頭の合戦シーンでは名作ではないかという予感を感じさせてくれたが、すべてはそこまで。結局、CMや予告編から受けるイメージに比して貧弱な映画として終わった。

大スクリーンで見たいと思い映画館に足を運んだが、その時点でようやく二部構成の前半なのだと知った。
肝心の赤壁は含まれないのである。
意図的にこの情報を隠蔽していたのは明らかで、自分の見た予告編にパート1といった表記はなかった。直前の予告編から差し込み始めた印象だ。

まあ確かに二部構成と知っていれば足が重くなったのも確かであろうし、プロモーションとしては正解なのだろうが、どうも腑に落ちない。が、エーベックスが関わっているからなのだろうと考えると、不思議に納得できた。
「長い物語だから、ボリュームとして致し方ないのだろう」と最大限の好意的解釈で挑むも、差し出した手は無碍に叩かれる。

無駄としか思えないシーン、完成度の低いシーンのオンパレード。

虎狩りは、人物と別撮りの違和感を隠そうともしない、安っぽいイメージシーン。
孔明が馬の産婆するシーンでどんな感想をもてというのか。
教練のエキストラはやる気なく、役者とのテンションの違いがこれでもかと際だつ。

演出の古くささも強烈だ。
手法が古くても、感性が古びていなければ良いのだが、今作は……。

矢を放つシーンで、飛ぶ矢をアップで捉えて背景が流れる画面など、昨今どこを探しても見つからない手法を平気で使う。

スローモーションも余りに多用されすぎで、また来たかと面倒に感じるほど。
だらだらした映像を、悠長なオーバーラップでつなげているだけといった印象で、ただただテンポを崩す効果に堕している。

亀のアップから戦場シーンへつなげる部分など、意味合い的なカメラつなぎだと分かっても、間抜けさに失笑せざるを得ない。

このように不満は多くあるが、映画としてはありだと思う。
監督はじめスタッフが本気で作っている、その気持ちは伝わってくるし、バカバカしくも懸命さを感じるのだ。
おじいちゃんが、旧仮名遣いの講談調で、漫画を書きました、というのが近い。
その時代錯誤や頑固に辟易もするが、どこか愛しさもこみ上げてくる。

だが、自分はこの映画が嫌いだ。
本来好きな人が見ればいいだけの、マニアックな映画なのに、このように風呂敷を広げて広報宣伝し、その結果非常に多くの人が映画館に足を運んでしまった。
青色吐息の業界には救いの糸だったかもしれないが、根本的には映画産業を傷つけていると考えるからだ。
今作の成功をたどって、また同じような作品が、同じような手法で再生産されるのが、怖い。

その意味で、後編を見に行くことは無いだろう。

2009年5月20日水曜日

駅馬車

★★★★☆
~ウェスタン満貫全席~


ジョンフォード監督。ロバートレッドフォード主演。映画史に残る記念碑的作品、らしい。
らしい、というのも、革命的作品であったからこそ、模倣者、追随者を多く生んだからだ。それはパクリというのではなく、今の映画文法ではすでに基本となってとけ込んでしまっている。そのため、今、改めて見ても、その先進性が感じられないのだ。

これは、ヒッチコックのサスペンスなどでも感じたことで、こういった意義だけは、同時代で鑑賞していなければ感じ取ることが出来ないのだろう。

この映画のもっとも革命的だったのは、映画の舞台自体を移動させながら、物語を作ったという点らしい。
それまでは、演劇の延長として、舞台を写す、という静的な存在であった映画に、馬車で移動するその車内の様子を、外観を、追いすがるインディアン達をつなぐことで、動的な物語舞台を構築したのがこの映画の金字塔だということだ。

確かに、駅馬車をつなぐ宿場での停止はあるものの、それ以外はすべて動きっぱなしだ。

このような見方をしなくても、今作は魅力にあふれた西部劇である。
さまざまな事情で同じ馬車に乗り合わせた旅客達が、危険あふれる荒野を駅馬車で移動する。もうこのプロットだけで、興味が湧いてくる。
関わる人数は多いはずなのに、見間違いや錯綜は一切無い。しかも、キャラクター付けを台詞一本で行うような不作法はしない。
行動の一つ一つがそのキャラクターを削りだしており、振り返ってみると、細かい説明はなかったはずなのに、それぞれのキャラクターの心情までが感じ取られるのだ。

無法者。
町の人々。
馬車。
騎兵隊。
インディアン。
決闘。
大戦闘。

その後生み出された西部劇のすべての要素が詰め込まれているかのような、満貫全席。なのに、少しも腹にもたれない。
ああ、やはり名作なのだろうと納得しきり。

―――――――――――――――――――
最近500円といった、非常な低価格で過去の名作が販売されています。
これは、映画黎明期の作品達が著作権を喪失し始めたからだということです。同じ映画が幾つもの値段が異なるパッケージで発売されていて、買うにも選びにくい。これには閉口です。

何しろ古い映画なわけですから、値段が高くたって画質が低い物も多いでしょう。安いのが悪いのかどうかも分かりません。
何か、新しい基準が欲しいものです。

著作権が切れた映画が増えてくるわけですから、これまでになかったややこしい問題、状況が発生してきそうですね。

2009年5月17日日曜日

ハリーポッターと不死鳥の騎士団


★★☆☆☆
~つなぎの一作~

良く解釈して、次回作へのつなぎ。物語全体における「ため」の部分。
これ一作では、どうにも魅力に乏しい二時間。

宣伝では魔法大戦争みたいなアピールをしていたが、戦闘は非常に小規模で期待を満足させることのできる内容ではない。
また、キャラクターの心情の流れに不合理を感じる場面が多く、誰に感情移入したもんやら常に迷う。
大人の行動が短絡で子供っぽいため、子供達の子供たる所以の大胆さが埋没する。
絵的な見せ場も少なく、前作の絢爛豪華と比べると明らかに見劣りする。

……などなどあるが、こういった不満はこれまでのシリーズ作品にもあった、それこそお約束のようなものだ。これは、原作が児童小説であるためなのは当然として、かなり私見だが、つじつまを気にしないイギリス系おとぎ話が基本ラインであるためだと思っている。

今回一番きつかったのは、シリアスすぎることだ。
ハリーポッターは、おとぎの国の、不思議なディティールを、アイデアを、その世界観を楽しむ作品だと思う。
その点で、今作の魅力は薄い。変わりに大きな比重を持つのが、ポッターの深い悩みである。
これまでとこれからをつなぐため、腹をくくる過程が描かれている(と思う)のだが、全編その雰囲気に支配され、心から喜ぶシーンは皆無と言っていい。
それを今作内で解消することなく終わるため、後味はひどく陰鬱なものとなる。

子供達が目を輝かせて劇場に入ったあと、うつむいて出てくるような気がしてならないのだ。

まあしかしそれも、次作次第だろう。ここまで長いシリーズで、すべてがクライマックスであることは難しい。従って今作が次作のための「ため」なのだと信じて、楽しみに待つことにする。

それはそうと、今作内では二次創作的においしい展開が大量にあるため、同人云々いわずとも、それぞれの時点で今後どうなるだろう、と想像しながら見ると、より楽しむことが出来ると思う。

ダイハード 4.0

★★★★☆
~「ダイハード1」の相似拡大~

これは良い。
細かいこと無視したハリウッド超大作。まさにエンターテイメント。
重々しくなることなく、ノリに身を流せて一喜一憂できる良作。

ハッキングによる世界支配という、考えてみればスーパーマンでも出てきたような話なのだが、これを良い具合にデフォルメして題材にしている。
あまりに現実に即しすぎて地味になることなく、おおざっぱにし過ぎてみてるのがあほらしくなるでもない、絶妙のいい加減さで事件を起こしている。

もうアメリカ復活不能ぐらいの壊滅的打撃を与えるテロ。そのほとんどが成功しているため、実際考えると主犯を捕まえても無駄だ。もうすでに数千数万の犠牲が出ているという状況。
しかし、描かれる範囲での死人が少ない。しかもほとんどが犯人グループ。

ダイハード1は、ビル乗っ取りのテロリスト達に一人で挑むという話しだが、4は、アメリカ全体を舞台にしているのに、実はこのパタンから外れていない。
主要機関を押さえられたビルと、ライフラインを分断されたアメリカ。これが、規模が違うのに相似形なのだ。

うまいのは、ライフラインを切断することで、本来発動するべきFBIや警察といった、組織的な危機管理機構が、早々に封殺されるという設定。
従って、自立的に判断し、無責任に行動できる主人公は、混乱した構造物の中を縦横に動き回る、一作目と同じヒーローなのだ。

こうなるともうあとはアイデア勝負。ともかく絵的なインパクトから話を作っているのではないかというくらい、無理矢理おもしろい危機的状況にはまりこんでいく。
無理矢理なので、ツッコミどころ多数だが、つっこんでる暇もなく物語は展開。もう途中から、そういう無粋はやめて、ただ単に映画を楽しんでいた。

見終わったあとの爽快感もあり、ぜひ映画館で見ておきたい作品。
しかし、もう次は世界を舞台にするしかないか……。
今回出てきた相棒役に代替わりするのがおもしろいではないかと思うのだが。