2020年9月4日金曜日

タイトロープ

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★★★☆☆
~性と愛と罪~


 1984年の米映画。クリント・イーストウッド主演のセクシャル刑事ドラマ。 
 
 

 ニューオリンズ 市警殺人課のウェス・ブロック刑事は離婚後、アマンダとペニーという2人の娘と暮らしていた。歓楽街フレンチ・クォーターで働く赤毛の娼婦が殺された。娼婦は手錠をはめられ、前後から犯された上、赤いリボンで首を絞められていた。美女殺人の2人目の犠牲者だった。<WIKIPEDIAより>
 

 暴力機械としての警察、その最前線に立つ男が狂気じみた暴力にさらされる女性と子供を保護するために奔走する。犯人は性風俗に関わる女性ばかりを惨殺。それを追うブロックも次第にその狂気にあてられていく。お金を払うことで女性をものとして扱う権利を得る様々な性産業を目の当たりにしながら、同時に彼女たちを守らなければならないという社会的な要請、つまりは本能と理性に挟まれて主人公は懊悩する。離婚して男やもめになった女ひでりという設定もなかなか熱い。まさに張り詰めたロープの綱渡り。


 女性を性犯罪から守る啓蒙活動を仕事とするベリルというヒロイン役が出てくるが、本作における真のヒロイン(達)はブロックの幼い二人の娘だろう。性的欲求と切り離された愛情。守りたいと願う純粋な気持ち。まだ幼い次女とローティーンほどに見える長女(家事全般をこなしているので言動が大人びている)、そして成熟した女性としてのベリル。年齢を埋めるようにして配置された女性陣、それを襲おうとする男(犯人)と守ろうとする男。子供を息子にせず二人とも娘にしたあたり、男と女の立ち位置の違い、隔絶と理解をテーマにしているのだろう。


 犯人を特定して徐々に追い詰めていくわけだが、特にミステリー要素はない。最初の現場から「怪しい足下」として犯人は登場しており、各所でも同じように示される。「近くにいてブロックの様子をうかがっている」ということをねっちり積み上げていく手法で、得体の知れない者が具体的に近くにいるという緊迫感を盛り上げている。細かなミスリードというか、気の利いた演出を各所に盛り込んでおり映画演出の才能を感じさせる。
 特に記憶に残るのは犯人が扮したピエロがブロックの次女に風船を手渡すシーン。風船を持ったままブロックの元に戻っていく娘。それを凝視するピエロ。なにかの弾みで手を放してしまい風船は屋根の上へと舞い上がっていく。視線で追う登場人物達――。そうは見えないのだが、爆発物など何か仕掛けがあるのではと勘ぐってしまうカメラワークで、結局何も起こらず風船は舞い上がっていく。物語としては進展のない緊迫感を積み上げるシーンなのだが、それだけではないロマンを感じる。犯人としては自分の獲物を近くからじっくり見定めようとしたのかも知れないが、舞い上がった風船を目で追う間、犯人も狂気から解放された普通の人間だったのかも知れない。本来子供らしさを象徴するふわふわとした風船。そのとなりに猟奇的、性的な存在を配置して奇跡的なバランスをとっている、これぞセンス・オブ・ワンダー、名シーンだと思う。


 午後ロー枠での放送を見たのでひょっとすると性的描写はもっと激しいものだったのかも知れないが、作品としては過不足ない分量だと思う。
 全体に重々しく陰鬱でデビット・フィンチャー監督の『セブン』と同じ空気を纏っているが、着地点はこちらが遙かに人道的でむやみに傷つけられることもないので薦めやすい。セブンは気になっている女性と見に行って最悪の雰囲気でそのあとお茶した記憶があるが、こちらはこちらで性的な描写も多いので気まずさは同じくらいだったかもしれない。
 
 

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