2012年12月19日水曜日

ゴティックメイド ー花の詩女ー


※本編の発売はされていないのでサントラへのリンクです。

★★★★
~ファンに捧げられた作品~


 エルガイム、Zガンダムなどのデザイン、漫画ファイブスターストーリーで多くの支持を受けるクリエイター永野護。彼が画面レイアウトや多くの原画までもを手がけて完成させた70分のアニメ映画。

 映画として観た場合、粗を探すのに事欠かない。
 起承転結のバランスが悪く、一作でまとまっていない。壮大な物語の風呂敷を広げるだけ広げて、後は文面フォローという投げやりさ。少人数で作成している事からくるのだろう、動画の少なさ。戦闘機を増やすのにコピーペーストしたことで狂ったパース。潔くないカット尻。フェードアウトの行きすぎた多用――。

 ところが、永野護のイマジネーションを高精度で映像化したものとしてみると病みつきになる魅力に溢れている。
 原画の多くを自身で手がけたという言葉に偽り無く、彼自身の絵がアニメーションになっているという感触が確かにある。氏の描く画の特徴は繊細な線と優雅さを失わない殺戮ロボット、そして人物画のつたなさにあると思う。指や、腕、全体のバランスが安定せず、特に顔のかき分けは微妙で、漫画でも流れを汲んで読まないと分からなくなる。

 おそらく、彼は人体の正しいバランス、デッサンを体得していない。しかしそれは欠点になるどころか大きな魅力になっている。デッサンにとらわれることなく、描きたいイメージをこそきっちりと画面に焼き付けてくるからだ。デッサンという階段を使うことなく、イメージを直接つかみ取る行為は、まさに彼の天才だろう。

 この能力が最も発揮されているのがロボットのデザインと描写だと思う。
 氏のデザインするロボットはほかのデザイナーのそれとは明らかに異なる。気品と美しさがあり、ミリタリー趣味とは違う意味での実在感に満ちている。複雑で緻密なデザインはアニメーションには向かないため、これまで彼がデザインしてアニメーションとなったロボットたちは、デザイン段階からアニメーション向けに簡略化されていたり、リデザインされていた。

 今作では、氏のデザインが生のまま、リミット解除されたフルスロットルで現出している。時間にして五分無いだろうあっという間のロボット戦闘シーンが、焼き付いたように頭から消えない。それは、これまで観たことの無かった映像だったのと同時に、とてもよく見知っていた映像でもあった。氏の書いたマンガの戦闘シーンを読んだときに脳内で再現されたイマジネーションと感応しあうイメージが展開されていたからだ。この不思議な感触にも納得である。
 それは長年の宿題の答え合わせをしてもらうようなものだ。漫画を読んではしびれてきたイマジネーションに実体が与えられたのだから。
 単純明快なベースの物語を補う要素として、氏の他の作品との複雑な連関がある。登場人物やロボットの位置づけなどは、なるほど、新しい情報として氏の描く世界観を補強し、新たな期待感を与えてくれる。だがこの楽しみは、観る者の前知識の量によってあまりに価値の異なるものだ。もとよりこの作品は一定の前知識のあるファンのみが見に行く映画だろう事は確かだが、その分新たなファンへの広がりが非常に苦しい作品であるとも言える。

 このような作品の前にあって、感じるのは不思議なことに感謝だ。幾多の困難があっただろうにそれを乗り越え、このような形で届けてくれた。そしてそれはファンが最も楽しむことの出来る特別な内容だったのだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿