~滋味深い一作~
★★★★☆
パルプフィクションのクエンティン・タランティーノ監督による毛色の変わった戦争映画。
監督の映画マニアっぷり、とくに時代に埋もれていくB級映画も、時代毎に銘記されていくA級映画も、自分の好みで選別する姿勢が如実に表れている。……らしい。
らしい、というのは、マニアックすぎて自分にも元ネタはほとんど分からないのだ。パンフの解説を読んで、引用が分かるくらいで、見た事のある作品どころか、聞いた事もない作品へのオマージュが多い。――と言ってしまうと、映画ファンの方々には呆れられてしまうのかも知れないが……。
ともかく、そういったオマージュ多用の映画にありがちな、妙につながらない感じ、分かるだろと言わんばかりの傲慢さは、これまでのタランティーノ作品同様今作にも全く無い。知らずに見ても一切問題なく、分かる人には少しだけ楽しいよという位置づけ。監督の自己満足といえばそうなのだろうが、楽しんで作っているというその雰囲気は伝わってくる。
映画に対する愛情がとても深い物語なのだ。
愛するシチュエーションを綺麗に取り入れていく、その消化、構築の作業は神業なのではないか。
今作では映画自体が物語の重要要素となっており、全体が映画という文化に対するリスペクト、オマージュに満ちていると言え、タランティーノの映画に対する愛情がもっともストレートに出ている作品だと感じた。
二次対戦末期、ヒトラー暗殺計画に関わる各勢力の暗躍が描かれるが、初っぱなからもう面白くて仕方がない。
タランティーノの作品は、とにかく登場人物のやりとりが魅力的だ。語る言葉、状況、意外な展開。これらが渾然一体となって作り出す空気。小さな出来事がどんどん連鎖し、目を離せなくなる。監督の手のひらの上でもてあそばれているような感触。それが心地よいのだ。
なぜ、こんなにも会話が面白いのか。
語られる小ネタがいちいち気が利いている事がまず目につくが、おそらく本当の魅力は、会話がドラマになっていることだろう。
考えてみれば、会話ほどドラマティックな日常作業はない。
はじまりの言葉。徐々にお互いの状況や認識を探っていく過程。そこに埋め込まれた寓意、罠、操作……。一転二転して落ち着きどころの分からない会話の終端。
ぐいぐい引き込まれる。
さらにこの映画にはすさまじい大技が用意されており、そんな馬鹿な! と思いながらもその展開に爽快感すら感じてしまうのだ。自分がいかに事前知識や先入観を持って映画を見ているのかがよく分かったが、それを避けられるものではなく、また、無理に避ける必要もないのだろう。監督の思惑通りに転がされれば良い。
この驚きは同監督の関わった「フロム・ダスク・ティル・ドーン」の後半展開や、多少毛色は違うが「バトル・ロワイアルⅡ」のトライシーン級のものがある。
一見の価値があるタランティーノらしい映画だろう。
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