2021年8月15日日曜日

愛は静けさの中に

愛は静けさの中に [DVD] 

★★★★
~存在の隔絶と求め合う情動~

 1986年の米映画。日本公開は1987年。舞台作品を原作としている。
 

 居場所を求めて様々な場所を転々としてきた中年教師ジェームズは、とある田舎の聾唖学校の教師として職を得た。少しばかり破天荒なやり方に校長に睨まれもするが、その成果とともに認められ始める。
 サラはその学校で清掃員として働いている学校の卒業生。明らかな美人であるが、過去の経験から発話訓練を行わなかったため手話しか会話手段が無く、他人を拒絶する態度から変人扱いされていた。彼女のやりとりにたぐいまれな聡明さを感じたジェームズは惹かれ、サラの世界に踏み込もうとするが――。


 違う世界の住人の出会い、わかり合おうとする情動を描く。
 聾唖者と健常者という分かりやすい形で示されるが、これは国や男女人種、その他あらゆる人間の違い――つまりは個人と個人がわかり合おうとする人間関係全てと同義であり、非常に普遍的な物語だと思う。その困難さと懊悩の深さ――そして希望。
 
 作品として気に入ったのは、「綺麗すぎない」線引き。ロマンチックだし、官能的だが、現実はそれだけで回らないということを常に暗示させる。セックスは恋愛物語の一つの到達点であるが、今作でのそれは毎日の営みといった重さで存在している。唐突に始まるがそれによって何事か解決するわけでは無く、コミュニケーションの一つ、会話の突端だったりするだけ。
 ジェームズの生徒たちについても、多くの生徒たちは彼の授業をきっかけにして変化していくが、一人だけ、決して変わらない子どもがいる。作品のまとまりだけ考えれば気の利いたエピソードを差し込んで大団円に持ち込みたいところだが、今作ではそれはそれでそのまま――。少し物足りなく進んでいくのが日常なのだ。
 善意だけの存在も、悪意だけの存在もいない。ステレオタイプに感じられるキャラクター(校長etc.)が登場するが、きちんと謝るところは謝るし、意地を張るところは張るし、ちゃんとそれぞれの人格を生きている。

 また、二つの世界が一つに重なるという結果が今作で結ばれることは無い。

 ジェームズとサラは結局互いの違いを再認し、それでも踏み込みあって、毎日を一緒に過ごしていこうと誓い合うところで物語は終わる。どちら側の世界では無く、二人の間にある新しい世界を形作ろうとするのだ。とても誠実で前向きな、素敵な結末だと思った。

 作品中過去が多く語られるが、いちいち回想されること無くてきぱきと進んで心地よく、また想像で補うのが効果的な内容となっている。これは舞台原作である所以もあるだろう。
 ロケーションもよく、ジェームズは小さなフェリー(車が数台しか載らなそう)で毎日学校まで通っている。古いが落ち着いた雰囲気の町並みはどこか赤毛のアンの世界を彷彿とさせる。
 
 障害者ヒロイン、特に悲惨な境遇が生々しく描かれた作品は強烈に心に残る……。
 武田鉄矢の『刑事物語』一作目のヒロインはソープに身をやつした聾唖者。
 日本海と三味線が迫る『津軽じょんがら節』の盲目の少女。
 
 今作で心に残るのは、やはり二人が離ればなれになる事件でのあの「音」。
 初めて観たのは大学時代のレンタルビデオ漬けの頃だと思うが、このシーンの印象があまりにも強烈に焼き付いていた。
 
 時代に左右されない、普遍的一作。

 

 



2021年8月14日土曜日

殺人の追憶

殺人の追憶 [Blu-ray] 

~入りきれない壁~
★★★☆☆
 

 2003年に制作、公開された韓国映画。監督は『パラサイト』でアカデミー賞を取ったポン・ジュノ。

 1986年10月、農村地帯華城市の用水路から束縛された女性の遺体が発見される。地元警察の刑事パクとチョが捜査にあたるが、捜査は進展せず、2か月後、線路脇の稲田でビョンスンの遺体が発見される。どちらも赤い服を身に着けた女性で、被害者の下着で縛られた上に、絞殺されていた。<Wikipediaより>

 今作は実際に発生した「華城連続殺人事件」を下敷きにしており、公開時点でも犯人は特定されていなかった。2019年にようやく犯人が見つかったが時効が成立しており罪には問えない状況。ただし、犯人は別の強姦殺人ですでに無期懲役の執行中であったとのこと。
 
 事件を元にはしているがノンフィクションでは無くフィクション。陰惨ながらも各所魅力的な内容となっている。

 現場捜査官のパクはいわゆる前時代的な刑事。しぶとく事件にしがみついていく熱意は持つが、これが犯人だと目星をつけたら、容赦なくつきまとい、警察署内の拷問部屋に連れ込んでは都合の良い供述をさせようとする始末。スニーカーの足跡を押し込むなど証拠の捏造にも迷いが無いが今回は拉致があかない。自白強要がマスコミに漏れ捜査陣が糾弾される始末。
 そんな中、ソウル市警のソ刑事が参入。パクと異なり科学的な捜査、事実の積み上げを信条とし、拷問や強要を是とはしない。同じように強い情熱を持って犯人逮捕に挑む二人だが、対照的な存在ということになる。
 
 この構図が事件の進展に合わせて変容していくのが本作の魅力の一つ。

 

2021年7月15日木曜日

聖戦士ダンバイン 総集編三部作


★★★☆☆
~記憶していたよりハードな物語~


 1983年のTVアニメシリーズを1988年に全三巻にまとめた総集編。各巻1時間弱なので全49話(ざっと16時間)をだいたい6分の1に圧縮していることになる。監督は『機動戦士ガンダム』の 富野由悠季。キャラクターデザインは『伝説巨神イデオン』『戦闘メカ ザブングル』の湖川友謙。
 

 精霊や妖精が存在し、オーラの力で機械を駆動させる世界、バイストン・ウェル。
 海と大地の狭間に存在するといわれるその世界はオーラ・ロードによって現実世界と接続されており、そこに住む者を「地上人」と呼んでいた。
 地上人はバイストン・ウェルの人々に比べてオーラの力が強いため、バイストン・ウェルの領主、国王たちは己の勢力を拡大するための戦力として地上人を召喚し、相争っていた。
 主人公ショウ・ザマは日本で暮らす青年であったがバイクで失踪中にバイストン・ウェルに召喚。オーラ力(ちから)で駆動する人型兵器、オーラバトラーの搭乗員として戦渦に巻き込まれていく。

 
 聖戦士ダンバインは玩具会社がおもちゃ販売を前提にスポンサーしていたアニメーションなのだが、『宇宙の戦士』の宮武一貴によるデザインは子供受け、一般受けはしにくい物だった。巨大な虫(というより巨獣)の甲殻を外装としているという設定に合わせてデザインされたオーラバトラーは直線が極端に少ない生物的なフォルムをしており、足先は巨大な爪として構成、飛翔用の羽根もトンボのような雰囲気とかなり攻めている。
 おもちゃ類の販売は難航し、途中スポンサーの変更があったりと打ち切りの憂き目にも遭いながら何とか完走した作品とのこと。だがこの唯一無二のデザインは時が立っても陳腐化すること無く、逆に時が立つほど他の幾多の作品の中にあって輝きを放つ。今回視聴して改めてその格好良さを再認識させられた。
 
 やはり総集編ではあらすじを追うくらいしか出来ず、幾多の勢力、数多の人物が理解できないまま現れ、消えていく。それでもとっ散らからずに本筋は追っていけるのだから、総集編としては良くまとまっていると言えるだろう。

2021年5月31日月曜日

96時間/レクイエム

 96時間/レクイエム (非情無情ロング・バージョン) [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

~もはや「96時間」関係ない~
★★☆☆☆


 2014年のアクション映画。米仏制作。2008年の『96時間』。2012年の『96時間/リベンジ』に続く三作目で、おそらく最終作。
 邦題の「96時間」は誘拐事件被害者の生存可能性が高いといわれる制限時間のことで、一作目はどんぴしゃだが、二作目三作目は誘拐主体では無いので苦しい。そもそもシリーズの原題は「taken」であり、捉えられたとか奪取された、という意味だろう。
 制作リュック・ベッソン、監督オリヴィエ・メガトンで二作目と同じ布陣。ということは……。
 

96時間/リベンジ

96時間/リベンジ [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray] 

~失われた「なまはげ」感~
★★☆☆☆


 2012年のアクション映画。米仏による制作で2008年の『96時間』の続編。
 制作にリュック・ベッソンが関わっているのは同じだが監督は替わっている。
 前作は娘を誘拐された主人公が元CIA工作員の能力を120%発揮して猪突猛進。法から解き放たれた獣が悪漢を容赦なく排除していく様はまさに爽快。分かりやすい構成で落ちも小気味よく、魅力あふれる一作だった。こちらに自分の感想があるので合わせて読んでいただくと通りが良い。
 
 この「娘を救うため」という強力な目的を続編ではどう処理するのかという点が興味深かったが、どうもパッとしない。
 

2021年4月28日水曜日

LOOP/ループ-時に囚われた男-

LOOP ループ 時に囚われた男 [レンタル落ち] 

~だまし絵のようなタイムリープ~
★★☆☆☆


 2016年のハンガリー映画。日本では劇場未公開なので情報が少ないが、ネット配信されているので視聴者はそこそこ居る模様。
 

 病院からの薬品横流し運搬役のアダム。ボスを裏切って薬品を横取り、高飛びして大金を稼ごうと画策するが、恋人アンナはそれを拒む。
 動き出した計画とアンナとの狭間で懊悩するアダムは1本のビデオを手に入れる。そこにはボスに銃殺される自分の姿が映っていた――。